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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
「お父さんは何と言ったんだ?」
「何も」
「何も言わない? 黙って運転しているだけだったのか?」
「そう。しばらくすると山が見えてきたの。行ったことなんてない山。もちろん名前も知らない山。雨が降りそうな日の山って何だか嫌な感じ。そうしたら体が震えてきたの」
「体が震えた? 山が怖かったのか?」
「違うわ」
京子はきっぱりとそう答えた。
「何が怖かったんだ?」
「父」
「お父さん?」
「そう、そのとき私は父が怖かった」
「……」
「震えていた体が今度は金縛りにあったみたいに動かなくなったの。隣の都子を見ることもできない。何かの力が私を押さえつけているんじゃなくて、逆にふあふあした感じ。きっと魔法がかけられていたのね」
「魔法か」
思えば私も何度か金縛りにあっている。
「ところがお父さんが『何か食べよう』と言ったの」
「道沿いにレストランを見つけたんだな」
「そうよ。そしてその父の言葉で金縛りが溶けたの。でもここからがちょっと厄介なんだけど、私たちが何を食べたのかがどうしても思い出せないの。思い出すことが出来るのは、食べたものに味がなかったと言うことだけ。そしてもう一つ」
「もう一つ……それは何だ?」
「『美味しいか』と私と都子に訊ねたときの父の笑顔。笑顔で『美味しいか』と訊ねられたら、味がしないなんて言えないでしょ。私『とっても美味しいよ』って父に嘘をついてしまったわ」
「京子ちゃん、君は嘘は言っていないと思う。きっと美味しかったんだよ。俺はそう思う」
「ふふふ。亮ちゃんがそう言ってくれるなら美味しかったんだと思うわ。そう思うことにする」
「……」
ここで京子の話が終わってほしいと思った。物語はハッピーエンドで終わるに限る。ところが京子はまた話し出した。幸せな結末が消えていく。
「そう訊ねた後に、父は席を立ったの、多分洗面所に行ったと思うんだけど。そのとき、都子が私にこう言ったの。言ったと言うより命令に近いかもしれないわ」
「命令?」
「命令……そうね、間違いなく命令だったと思う」
「何を命令されたんだ?」
「都子はこう言ったの『京子、逃げて! 早く逃げて!』」
「君のお父さんから?」
「そうよ」
「どうして? どうして逃げなければいけないんだ?」
「……父に殺されてしまうかもしれないから」
「殺される!」
私は京子の言葉に驚いた。
「何も」
「何も言わない? 黙って運転しているだけだったのか?」
「そう。しばらくすると山が見えてきたの。行ったことなんてない山。もちろん名前も知らない山。雨が降りそうな日の山って何だか嫌な感じ。そうしたら体が震えてきたの」
「体が震えた? 山が怖かったのか?」
「違うわ」
京子はきっぱりとそう答えた。
「何が怖かったんだ?」
「父」
「お父さん?」
「そう、そのとき私は父が怖かった」
「……」
「震えていた体が今度は金縛りにあったみたいに動かなくなったの。隣の都子を見ることもできない。何かの力が私を押さえつけているんじゃなくて、逆にふあふあした感じ。きっと魔法がかけられていたのね」
「魔法か」
思えば私も何度か金縛りにあっている。
「ところがお父さんが『何か食べよう』と言ったの」
「道沿いにレストランを見つけたんだな」
「そうよ。そしてその父の言葉で金縛りが溶けたの。でもここからがちょっと厄介なんだけど、私たちが何を食べたのかがどうしても思い出せないの。思い出すことが出来るのは、食べたものに味がなかったと言うことだけ。そしてもう一つ」
「もう一つ……それは何だ?」
「『美味しいか』と私と都子に訊ねたときの父の笑顔。笑顔で『美味しいか』と訊ねられたら、味がしないなんて言えないでしょ。私『とっても美味しいよ』って父に嘘をついてしまったわ」
「京子ちゃん、君は嘘は言っていないと思う。きっと美味しかったんだよ。俺はそう思う」
「ふふふ。亮ちゃんがそう言ってくれるなら美味しかったんだと思うわ。そう思うことにする」
「……」
ここで京子の話が終わってほしいと思った。物語はハッピーエンドで終わるに限る。ところが京子はまた話し出した。幸せな結末が消えていく。
「そう訊ねた後に、父は席を立ったの、多分洗面所に行ったと思うんだけど。そのとき、都子が私にこう言ったの。言ったと言うより命令に近いかもしれないわ」
「命令?」
「命令……そうね、間違いなく命令だったと思う」
「何を命令されたんだ?」
「都子はこう言ったの『京子、逃げて! 早く逃げて!』」
「君のお父さんから?」
「そうよ」
「どうして? どうして逃げなければいけないんだ?」
「……父に殺されてしまうかもしれないから」
「殺される!」
私は京子の言葉に驚いた。

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