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千一夜
第54章 第七夜 最終章 真空のゆらぎ
「雨の降りそうな日だったわ。違う違う、父と都子の話の方が先ね」
「……」
「夕食のとき、父が私たちにこう言ったの『明日はどこかに行こうか』。嬉しかったわ。父からどこかに連れて行ってもらったことなんて一度もなかったんだもの。だから私は父と都子と三人で、父の言った『どこか』に行きたかった」
「……」
 私は宝冠弥勒に顔を向けたままの京子を見ている。綺麗な女だと思った。いや、隣にいるのは京子ではなく、菩薩様なのではないかと思った。
「嬉しくて嬉しくて、布団の中に入っても何だか寝付けそうになかったの。そんなとき、二段ベッドの上で寝ている都子が私にこう訊ねたの『京子は死ぬのが怖くない?』って」
「……」
「怖いも怖くないもの、私は死というものを考えたことが一度もなかった。だから私は都子にこう答えたわ『わからない』と。そして私はこう続けた『でも私は死ぬのなんて嫌だ』」
「それから都子ちゃんは君に何と言ったんだ?」
「何も」
「何も?」
「何も言わなかったわ。都子がもう寝たのか、それとも起きていたのかもわからない」
「……」
「多分都子も眠りにつくことが出来なかったと思うの」
「でもいつの間にか朝を迎えていた?」
「そう、その通りよ。所詮は子供よ。頭の中でいろいろ考えても眠りの中にすとんと落ちる。でも妙な朝だったわ」
「妙な朝? 雨が降りそうだったから?」
 私は子供が思う“妙な朝”について考えてみた。
「父と都子の様子」
「お父さんと都子ちゃんの様子?」
「二人とも暗い顔をしてたわ。これから三人で出掛けるのによ。楽しくて楽しくてしょうがないはずなのに。どうして笑顔がないの? 朝食のときも誰も話さない……『おはよう』の朝の挨拶もなかった」
「それから君たちは出掛けたのか?」
「ええ。雨が降りそうだったから、父にこう言ったの『傘を持って行こうよ』」
「お父さんは何と答えたんだ?」
「父は感情のない声でこう答えた『必要ない』と」
「……」
「父の車の後部座席に私と都子が座ると、父の車が発進したわ。映画でもいい、ショッピングモールで三人で買い物をしてもいい。そう心の中で誰かにお願いしたの」
「……」
 心の中の誰かとは、神様であり仏様なのかもしれない。
「でもね、父の運転する車は山の方に向かったの」
「それで?」
「私は勇気を出して父に訊ねたわ『どこに行くの?』と」
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