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背徳のキス
第5章 4話目
「はい、今日の夕飯に出てきたミル貝。」
「いつもありがとう、ルルト。ごめんね、こんな盗人みたいな真似させて。」
「ガリガリのお姉ちゃんが餓死するよりは100倍マシだから別にいいよ。」
屈託の無い笑みを向けながらも、ルルトはサラッとシェリーの所々骨が浮き出た痩せ細った身体を指摘する。姉の身を案じたのだ。
「ルルトってば、大袈裟だよ。」
シェリーは笑みを浮かべたが、その頬にも肉が全く無い。病的な細さだ。
「.......今日誰か、来た?」
「来たけど、何で分かったの?」
「屑籠がホタテの貝殻で一杯になってたから。あんな量、お姉ちゃん一人で食べれないでしょう?誰かと一緒に食べたのかなって。」
不気味な程ホタテ貝で溢れかえっている屑籠を指差しながらルルトは尋ねると、シェリーは思わず表情を緩めた。
「そう、レヴィさんっていう面白い人魚が来たの。」
「レヴィさん?」
「そうなの。ホタテ貝を90個ペロリと平らげちゃう大食いで、バショウカジキ並みのスピードで泳げて、魔法も使えて、自分の事を新種の人魚だって言ってた(笑)面白いよね(笑)」
目元を緩ませて笑うシェリーは、楽しそうに「レヴィさん」の事を語った。幸薄そうな雰囲気を纏う彼女から、自然な笑い声が転げ落ちるのは珍しい事で、ルルトは驚きながらも内心複雑な思いを抱えながらシェリーの話に耳を傾けた。
”お姉ちゃん、凄く楽しそう。
でも恐らくそのレヴィさんって人魚じゃないと思うな。だって、人魚の宮殿に新種の人魚なんていう奇妙な種族は存在しないし....うーん…どうしよう“
情報通なルルトは真実を言おうか迷った。そのレヴィという人魚が、明らかに正体を偽っているのは明白なのだ。しかし、事実を言えば、ご機嫌な姉の話に水を差し、ショックを与えてしまうかもしれない。そう考えたルルトは、ひとまず「うんうん」と頷きながら、姉の話を聞き続けた。
”話を聞く限りレヴィさんって人は、お姉ちゃんに危害を与える目的で近づいてきているわけじゃなさそうだ。善人と断定出来るわけじゃないけど、少なくともレヴィさんと接触して問題が無いのなら、本当の事は言わなくてもいいのかも。“
ニコニコと姉の話を聞きながら、最適解とも言える結論を導き出せたルルトは、微笑みを深くした。知らぬが仏というやつだ。