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背徳のキス
第5章 4話目


「ルルト、あのさ1つ聞いてもいい?」


レヴィとの出会いから今日に至るまでの出来事を一頻り笑いながら語っていたシェリーだったが、急に落ち着いた声でルルトに尋ねた。


「どうしたの?」


「....人魚の宮殿に新種の人魚なんて、多分居ないんだよね?」


「......え?」


諦念の笑みを浮かべながらシェリーに話しかけられたルルトは、一瞬反応が遅れた。
先程まで楽しそうに話に咲かせていたシェリーが、内心違う事を考えていたとは思えなかったのだ。


「.........居ないんだね。」


「お姉ちゃん、気づいてたの?」


「確証は無かったけど、何となくそうなんじゃないかって。そっか、やっぱり居ないんだね。」


”居てほしかったな。“と後に続きそうな台詞だった。
シェリーの笑顔には先程には無かった寂寥感が漂っている。


「大丈夫。レヴィさんは嘘付きだけど、またお姉ちゃんの所に来てくれるから。」


「....来てくれるかな?」


「来てくれるよ。だってレヴィさんはお姉ちゃんの絵を絶賛してたわけだし。だからその時までにレヴィさんの似顔絵を完成させて渡せるといいね。」


”こんなに面白い人魚が居るんだなぁって思ったら、つい描きたくなっちゃって。
まだ下書きの段階だけど、いつか絶対完成させるんだ”

ついさっきレヴィとの話の中で、声を弾ませながら、そう自分に語っていたシェリーの言葉をルルトは思い出し、姉の背中を押すように言葉を紡いだ。


「わ、渡すつもりは無いの。」


見る見るうちに火照り始めた頬を手で仰ぎながら、シェリーは返答する。


「え、そうなの?てっきりレヴィさんにプレゼントするものかと思ってた。」


「渡すわけないじゃない。頼まれてもいないのに。」


「じゃあサプライズとして渡そうよ。絶対レヴィさん喜ぶよ。絵の上手さにかけてはお姉ちゃんの右に出る者は居ないんだから。頑張って!」


最後にエールを送ったルルトの言葉にシェリーは、「ルルトは褒め上手なんだから」と言って少し困ったように微笑んでいたが、その顔は和やかなものだった。


“レヴィさんか...謎が多いけど、いつか僕も会えるといいな。”


知的好奇心が多いに刺激されてしまったルルトはまだ見ぬ謎の海洋生物レヴァイアタンに思いを巡らせたのだった。


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