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家庭教師のさよ子先生 誘惑のノースリーブ
第2章 万二郎くんの高校受験 B1 提出物、ちゃんとしようよっ!
 今日の職場は京都市内のファミリー向けマンションの3階の一室で、初めて訪れたこのご家庭で私は土曜日の朝から新たな生徒の保護者と面談していました。

「へえー、別所さんはご夫婦とも学校の先生なんですね。公立ですか?」
「ええ、私は市立中学校の数学教師で妻は市立小学校の理科専属教師です。当然息子とは別の学校ですけどね」
「なるほど、ということは万二郎くんも最初から高校受験コースをお考えだったんですね。目指すは公立の名門堀山高校! って感じですか?」
「いえ、私も主人も息子には中学受験させる気しかなかったのですが正直言って成長が遅かったので。小学6年生から勉強ができるようになっても手遅れでしょう?」
「そ、それはまあ……」

 別所さんご夫婦は中学受験させる気満々だった息子の万二郎くんの成長が遅かったせいでやむなく公立中学校から高校受験をさせざるを得なくなったとのことで、公立学校の教員が自分の子供は私立中高一貫校に進学させたがるというのはこの国あるあるだなあと思いました。


 いつものようにご両親には外出して頂いてからあえてノックせずに万二郎くんの部屋に入ると、そこでは黒いマントに身を包んだ普通身長の男子中学生が姿見の前で決めポーズをしていました。

「ククク……俺は世界を|獲《と》る男B・B。この世に|蔓延《はびこ》る悪鬼を一刀両断のもとに……」
「こんにちはーべっしょばんじろうくーん、かていきょうしのさよこせんせいがまいりましたー」
「ぎゃああああああああああ!! すみませんすみません、先生が来たの気づいてませんでした!!」

 私が棒読みで声をかけると世界を獲る男B・B改め|別所《べっしょ》|万二郎《ばんじろう》くんは床で土下座しながら謝ってきて、中学2年生なんだし別に謝らなくていいのにと私は思いました。

 それから万二郎くんはペットボトルのお茶を持ってきて私に差し出し、私はありがとー、と答えてペットボトルのお茶をこくこくと飲みました。

 中二病でコミュニケーションに難があるとご両親からは聞いていましたが初めて出会った他人に自然と丁寧に接することのできる万二郎くんの姿からは教師であるご両親に育てられたゆえのしつけの良さが感じられ、私はこういう純朴な男の子の初めてはすっごく美味しそうだと思いました。
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