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第4章 夫への苛立ち

　思いがけぬ—-できれば二度と会いたくなかった—
人物との再会に狼狽えた志津香だったが、

「…本田の妻の志津香と申します。この度は主人が大変なことを、申し訳ございません」

　内心の動揺を押さえ、氷川と目を合わさないようにしつつ、再び頭を下げた。その瞬間、彼女の夫以外の男たちがこっそり目配せしたのに、志津香は気づかなかった。人妻が顔を上げたときには、彼らの下卑た顔は元に戻っていた。

「まあ、とりあえず、本田君も疲れただろうから、今日は、お開きとしようか。事故と言っても大事には至らなかったことだし、今回の件は日をあらためて話そう」

　部長の下島が鷹揚に言った。それに追随するように取引先の鮫島部長も、

「そうですな。下島さん。我々も本田さんにばかり運転させてしまって申し訳なかったです。奥さんもわざわざ来てもらって悪かったですね」

　意外にも労うような言葉を口にした。てっきり責められるものばかり覚悟していた志津香としては恐縮するしかない。安堵に胸を撫で下ろし、

「本当に申し訳ございませんでした」

　うなだれたまま何もしない夫に苛立ちを覚えながらも、深々と頭を下げた。