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ネコの運ぶ夢
第5章 ネコの名前
〜What’s the cat’s name?〜

ある日の夕食。
今日は俺が食事を作った。暑かったのでメインは冷やし中華、それと副菜としてアスパラの肉巻き・・・にしようと思ったが、面倒だったので、アスパラと豚肉の炒めもの風のなにか、だ。

相変わらず、音子はガツガツと頬張る。本当に美味しそうに食べるので、見ているだけで幸せな気持ちになる。不覚にも。

その日も、そうやって平和な食卓が続く、はずだった。が・・・

「むっ!?」

突然、音子が食べる手を止める。もぐもぐ、ごっくんと飲み込み、麦茶を一口飲む。
「どうした?つっかえたか?」
尋ねたが、ぶんぶんと首をふる。

「今、音子は、すごい大事なことに気づいてしまった・・・。」

なんか、嫌な予感がする。
こん、と麦茶を飲み干したコップを置くと、俺の方をきっと見つめる。

「市ノ瀬さん!私は誰ですか?」
・・・どうした、お前・・・なんか悪いものでも喰ったか?

「美鈴・・・さん?」
俺が言うと、むーっと眉間にしわを寄せて腕組みをする。

「やっぱり・・・」
なんだ、なんだ・・・?

「音子は、音子です!だから、市ノ瀬さんも・・・『音子』と呼んでください!」
はい?なんじゃそりゃ?
「いっつも思っていたんです・・・『美鈴さん』・・・とても、距離がある。
 『お前』は悪くないけど、やっぱり、やっぱり名前を!名前で呼んでください!」

つまり・・・名前呼びしろと?
ぐっと音子が俺の方を見つめてくる。
ダメだ・・・この展開・・・いつもこれで負けてしまう。

家にいさせてくれと言われたときも、
顔を見て寝てほしいと言われたときも、
抱きついて寝ていいかと言われたときも、
相合い傘をねだられたときも、
この眼で見つめられて・・いつもグダってしまった。

そもそも、抱きついて寝るのも、数日されて、さすがにギブアップだ。仕事どころか、生きるのにも支障が出るところだった。
なんとか「暑いから!」という理由で交渉を重ね、拝み倒し、やっとのことで、

「じゃあ、腕枕でいいです。仕方ないので暑い時期は我慢します。」

と、譲歩させたのだ、・・・って、本当は腕枕でもあかんだろ!と気づいたのはその話をした次の日だった。しかも、秋になったらまた抱きつくという予告付きだ。

勘弁してくれ・・・。
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