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ネコの運ぶ夢
第5章 ネコの名前
☆☆☆
帰宅後も、音子の「ネコと言わせよう大作戦(仮)」は続いた。

新聞のクロスワードパズルを解いては、
「〇〇に小判ですって・・・何でしたっけ?」

窓の外でネコの声がしては、
「市ノ瀬さん!声がします!なんの声でしょう!?」

テレビで動物番組を映しては、
「可愛いですね!ほらほら、この子なんか!うちでも一緒に飼いたいですね!」

などなど。
見え見えのものもあればかなり巧妙な引掛けをしてくることもあり、数回は引っかかり、「ネコ」と言ってしまう。その度に、音子はにこにこして喜ぶ。
何が嬉しいのやら・・・。

11時をまわり、そろそろ寝るという時間。
いつものように、そそくさと音子は俺の右腕をぐいと伸ばさせ、そこに頭を乗せる。寝ようとするたびにグリグリと腕の感触を楽しむかのようにこすりつけるのは、本当にやめて欲しい。

腕枕をしているので、俺は自然と上向きになる。音子はこっちに顔を向けて寝る。いつもだったら数分ですーすーと寝息を立て始めるが、今日は、なかなか目を閉じない。
じーっと俺の方を見つめている。
どうした?怖いぞ。

「市ノ瀬さん・・・。いつもありがとう。
 音子はここにいて、市ノ瀬さんと一緒にいて、本当に、嬉しいです。
 だから、できるだけ、市ノ瀬さんの迷惑にならないようにします。」
なんだ、いきなり・・・。
いつも、ベタベタに甘えてくるくせに、若干調子が狂う。
狂うついでに、つい、聞いてしまった。

「なんで、名前で呼んでほしいんだ?」
「名前で呼ばれると、ここにいていいんだ、って思えるかなって。
 家の人は、誰も、私の名前を呼ばなかったから・・・。
 もし、市ノ瀬さんが、『ただいま、音子』って言ってくれたら
 私は、ここにいていいんだって・・・」

子どもの名前を呼ばない家って一体何なんだ。
こいつは一体、今までどんな生活をしてきたんだ?

そう言えば、ここに来た日も帰る家がないと言っていた。それで宛もなくあちこちさまよって、さまよって、ここで倒れていたと。

帰るところがない、ということの怖さには俺も覚えがある。
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