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ネコの運ぶ夢
第5章 ネコの名前
まだ、妻と一緒にいたときのことだ。
家で妻が荒れて、俺に向けて刃物を持ち出さんばかりの事態になった時があった。俺は慌てて家を出た。子どもたちを残してきたのは気がかりだったが、さすがの妻も子どもに手を上げることはしないだろうと、そこは信頼していた。

ただ、俺が戻ればまた罵ったり、刃物を持ち出そうとするだろう。
落ち着くまで家には寄りつけない。

結局、その日から3日間、都内のカプセルホテルを転々として生活する事になった。
会社が終わっても、帰るところがない。
今日、一体どこに行けばいいのかもわからない。

帰る家がない、ということがどんなに苦しくて、心細いものなのか、その時俺は初めて知った。

ああ、そうか・・・音子をどうしても追い出すことができなかったのは、音子にかつての自分を見たからか・・・。
帰る場所がなく、街中をフラフラさまよった自分の姿を音子に重ねてしまったのだ。

こんな事を考えているうちに、音子は寝てしまったようだ。目を閉じて軽い寝息を立てている。
こいつは本当に静かに眠る。夜中に目が覚めて、こいつを見ていると、あまりにも微動だにしないので、死んでやしないかと不安になるくらいだ。

左手でそっと音子の顔にかかっている髪を避けてやる。
お前はいったい何者なんだ?
なんで、ここにいる?なんで、俺のそばにいる?

なあ・・・
「音子・・・」
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