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彼女はボクに発情しない
第14章 組曲:夏の夜の願い ”優しい祈り”
【Midsummer Night's Wishes suite No.2『She offers a gentle prayer』】

「ちょっと待ってよ、ルリ」
ルリがさっさと歩くものだから、履き慣れない下駄に手こずり、そんなに素早く歩けない私は悲鳴を上げる。大体、ルリは下駄どころか、浴衣ですらない。

『私、浴衣持ってなくてさ』

てへ、と舌を出したのはほんの30分くらい前のことだった。それなら、そう言ってくれればいいのに。二人連れで一人だけ浴衣というのはどうなのだろう?

「それにしても、今日の優子は一段と可愛いよねー」

須賀大社の鳥居の前で、私のことを上から下まで舐めるように見てルリが言った。あんまりまじまじ見られると、ちょっと恥ずかしい。

本当は私も浴衣なんか持っていなかった。ママに「友達と夏祭りに行く」「ゆかたコンテストがある」と言ったら、想像以上に乗り気になってしまった。ママに連れられて行った美容室で、髪から化粧から全部やってもらえたし、浴衣のレンタルまでしてくれたのだ。
ママは私が中学校時代、友人関係に悩んでいたのを知っていたので、どうやら「優子にお友達が!!」と嬉しさが暴走してしまったようだ。

とにかく、とてつもなく綺麗に仕上げられてしまったのだ。ルリが感嘆するのも無理はない。

「絶対コンテストに出ようね!こりゃ優勝間違いなしだね」
神社に着いて早々、数ある屋台に目もくれず、ルリは私をゆかたコンテストの受付に引っ張っていった。コンテストには個人部門とカップル部門があったが、当然、私は個人部門だ。

「なにこれ!?カップル部門とかあるじゃん!
 あー!私も浴衣を着てくりゃよかった!
 そしたら優子とカップルで出られたのに!」

突然、ルリがハチャメチャな発言をするので、私は笑ってしまった。でも、今はLGBTQとやらで、女性ー女性、男性ー男性のカップルも問題なく受け付けるそうなので、あながちおかしなことでもないらしい。

まあ、残念だったね、と請け合うしかない。
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