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彼女はボクに発情しない
第5章 保健室のブルース
☆☆☆
朝の学活が終わり、1時間目が訪れる。今日の1限は数学だ。壬生先生、通称ミブセンの授業。ミブセンは無表情で淡々と授業を進める。奏は「スッキリしててわかりやすい」と言っているが、ボクからすると「意味不明な上つまらない」だ。

「では、今回宿題で出したこの問題、解けたものはいますか?」
ミブセンは少し目と目の間が離れた爬虫類的な視線をクラスに向ける。ボクは下を向く。宿題?やってるわけねえだろ。

「はい」
凛と手を上げたのは、奏だった。

「では四宮さん。やってみてください」
奏はノートを手に黒板の前に立ち、カツカツと淀みなく数式を展開していく。数字もきれいだ。まるで奏自身が数学の先生のようだ。

「できました」
言うと、すっと席に戻る。おおーっとクラスがざわめいたところをみると、けっこう難しめの問題だったようだ。このミブセン、平気で国立大学レベルの受験問題を宿題にしやがる。
そんな問題をあっさりと解いてしまう奏はやっぱりすごい。ボクなんかと比べ物にならない。そして、これがクラスの人から距離を置かれてしまう原因でもある。

月とスッポン
提灯に釣鐘
雲泥の差

「ん・・・よく出来てます。では、分からなかった者のために説明すると・・・」
ミブセンが説明を始めるが、全く頭に入ってこない。そもそも頭がグラグラする。いかん、鼻水たれてきた・・・。

それでも頑張っていちおう目だけは開けてようとつとめているのだが、どうにも視界がグラグラする。

「それで、ここでsinの加法定理を使って式を変形するのが・・・」
サインの魔法?何だそりゃ。ああ・・・ダメだ・・・意識が・・・意識が遠くなる・・・

ゴン!

派手な音を立ててボクのおでこが机に衝突した。
「こら!高山くん!居眠りしない!」
ミブセンの怒鳴り声にビクリと反応し、あわてて顔を上げる。
「ひゃい!」
ところが、勢い余って今度は後ろにのけぞってしまう。ああ・・・いかん・・・たお・・・れ・・・る。

そのまま、ボクは後ろにひっくり返り、意識が闇に呑み込まれた。
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