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彼女はボクに発情しない
第5章 保健室のブルース
☆☆☆
どっしゃーん!

教室で起こるのにはあまりにも大きな音が響き渡る。みんなが一斉に音のした方向を見る。当然私も振り向いて見た。

陽太が、ひっくり返っていた。

「おい!大丈夫か?」
陽太の後ろの席の霧島くんが慌てて起こそうとする。

「霧島くん!触らないで!」

壬生先生が鋭い声を上げる。

「頭を打ってるかもしれません。むやみに動かしてはいけません!保健委員!飯長先生を呼んできてください。」

保健委員の倉橋さんが慌てて廊下に飛び出す。飯長先生とはうちの学校の養護教諭だ。
壬生先生が陽太の近くにかがみ込む。

「後ろの机の足に頭をぶつけているようです。息はしていますし、脈も乱れていないようです。でも、ちょっと、私では動かしていいかわからないですね・・・。」

陽太!

え?頭打ってって・・・。陽太・・・大丈夫なの?!
私も近寄ろうとすると、私より早く、大槻さんや笹本さんが駆け寄って「高山くん!」「大丈夫なの?」と声をかけ始める。それを合図にしたように、クラス中の人が陽太を取り囲み、皆、口々に陽太を気遣う声をかける。

「おい!陽太!しっかりしろ」
「傷は浅いぞ」
「高山くん・・・」
「先生、救急車呼びますか?」
「どうしよう!おい!高山!」

「皆さん落ち着いて。飯長先生を待ちましょう。」
みんなを沈めるために壬生先生が珍しく大きな声を上げる。ちょうどその時、倉橋さんが飯長先生を連れてきてくれた。

「どれどれ・・・?」
飯長先生はいつもどおり、白衣を着て、ロングヘアが片目にかかっており、口にはベイプと言われるいわゆる電子タバコを咥えた様子で現れた。とても養護の先生とは思えないいでたちだが、元は救急救命病棟で看護師をしていたという頼りになる先生だ。
首筋に指を当てて脈を見たり、下瞼を引き下げて目の動きを見たりした上で、そっと陽太の後ろ頭に手をやる。引き出された手に少し血がついているのが見えた。
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