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彼女はボクに発情しない
第28章 組曲:月下の夢 ”朱い月”
☆☆☆
しばらくして、お兄ちゃんが来た。イギリスに行くと言ったんだって、と嬉しそうに言っていた。

私は、何か、ふわふわとした現実感のない状態で、その話を聞いていた。
胸が、さっきから痛くて仕方がない。

私がぼんやりしている間に、お兄ちゃんがあっという間に飛行機の手配、向こうでの入院の手配をしてくれたようだった。

そして、最後に学校で挨拶をしたほうがいいと言ってくれた。
最後・・・、陽太に、会える、最後・・・?

お兄ちゃんが、薬を注射してくれた。
「これはそう何度も使えないけど、一時的にホルモンの分泌を抑えるから、発情をしなくて済む」と言っていた。

その言葉で、やっと私は部屋を出る決意ができた。

薬の効果は約20時間。一度使うと次の投与までには48時間以上あける必要がある。そして、アンプルはあと1つしか持ってきていないので、それは、飛行機での移動のときに使う事になっていた。

「奏ちゃん!大丈夫?」
「奏さん・・・。心配したよ」
学校につくと、まっさきに大槻さんと優子ちゃんが声をかけてくれた。それ以外にも、長谷川くんや霧島くんも、そして、陽太も私のことをニコニコと見ていた。

陽太・・・。

声をかけようとしたが、喉につっかえるようで、うまく言葉にできなかった。

HRの時間、佐伯先生から、私がずっと脳の病気だったこと、
そして、イギリスで手術を受けることになったこと、
そのために、学校は休学することになったこと、
などが皆に伝えられた。

先生に促されて、私は皆の前に立つ。

「皆さん。これまで、本当にお世話になりました。
 私は、休学して、皆さんと違う道を歩むことになります。
 でも、ここで、この学校で得たことは・・・」
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