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彼女はボクに発情しない
第28章 組曲:月下の夢 ”朱い月”
☆☆☆
「元気でね!奏お姉ちゃん!!お手紙書くから」
ギュッと両手で風香ちゃんが私の手を掴む。

その横で、陽太が笑っている。そして、そのとなりには・・・、
優子ちゃんがいた。

頑張って、ひとりひとりの顔を見る。好きな友達と別れを惜しむ少女の振りをする。
なんとか、最後まで、ボロを出さないように。
情けない姿を見せないように。

心が壊れないように。

「じゃあな、奏」
「奏ちゃん・・・」

優子ちゃんが教室に忘れたものだと、寄せ書きと記念品の入った紙袋をくれた。
あの日、取りに入ることができなかったやつだ。

陽太が手をふる。そして、その隣に寄り添うように立っている優子ちゃんもそっと手を振った。
なんとか絞り出すように笑顔を見せる。

「さ、行こう、奏」
お兄ちゃんが、私の肩を抱くようにして保安検査所のゲートに導く。陽太たちに背中を見せたことで、やっと、私は無理をした笑顔をやめることができた。

「お兄さん!!」

陽太がひときわ大きな声で叫ぶ。
「あ?」
その声に身を固くする私のかわりに、お兄ちゃんが振り返った。
「奏を・・・お願いします」

バカヤロウ、とお兄ちゃんが呟いた気がする。

「当たり前だ!」

一言だけ返すと、今度こそ本当に私達は保安検査所をくぐり抜けた。

これが、私の物語。
一人で浮かれて、一人で落ちた、愛されるわけがない女の、恋の結末。
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