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彼女はボクに発情しない
第10章 恋する乙女のための小夜曲
「私もお兄ちゃんがほしかったな」
「え?そうなの?」
「そう!宿題教えてもらったり、どこかに連れてってもらったり・・・」
「うーん、そんなにいいものかなあ?」

妹の風香のことを思い浮かべる。あいつにはいっつもバカにされているような気がするし、なんとなればボクよりも頭いいんじゃないかと思うことすらある。こっちが宿題みてほしいくらいだ。

「高山くんみたいなお兄ちゃんだったら良かったのに」
え、それってどういうこと?なんと反応していいかわからない。

戸惑っているうちに、彼女は先に歩いて行ってしまう。

昼も近くなったので、彼女が行きたいと言っていたカフェを目指す。
パンケーキを主体とした店だったが、ハンバーガーなども出してくれる。ハンバーガーといっても、マクド◯ルドのようなものではなく、皿に盛られてくる、豪勢なやつだ。そこそこの値段はするが、まあお小遣いの範囲だ。

彼女は季節のパンケーキセット、ボクはハンバーガーのセットを頼んだ。待っているときも、彼女は肘をついてボクの方をニコニコと見ている。

「私、高山くんのことずっと見てたんだよ?」
ドキン、とする。
思わず、カメラマンを探して周囲を見回したくなる。
それほど、ボクにとっては非現実的な状況だ。

ここまでくれば、いかにニブチンなボクでもわかる。
彼女は、笹本優子は、ボクのことが本当に好きなのだ。

頭がグラングランしてきた。小学生、いいや、保育園の頃から奏を、奏だけをずっと見てきて、奏が大好きだったボクにとって、他の女の子は、変な話し『範疇外』だった。目に、入ってすらいなかった。

加えて、小学校4年からは、奏の『発情』が気になりすぎて、ますます他の子のことなんて考えるゆとりはなかった。

でも、今、目の前に、結構・・・いや、とても可愛らしい女の子がボクを見ている。話していても、変に緊張しないで済むし、ほんわかした気持ちにもなる。

そして、何より、胸が大きい。

なんだろう。不思議な気持ちだ。胸の奥がくすぐったくなるような、あったかいような、そんな感じだ。

ボクは、今、生まれてはじめて、奏以外の女の子を本当の意味で『見た』気がした。
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