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添花の愉悦
第1章 添花の愉悦
 麗奈の話を聞きながら、環は自分の頬が真っ赤になるのがわかった。

「環ったら、このての話になるとすぐ赤くなって黙り込んじゃうよね。いつまでもそんなおこちゃまな反応してると、旦那にそっぽむかれちゃうよ?」

居心地悪そうにうつむいた環を見て、麗奈はくすくす笑うと、イタリア栗のモンブランと一緒に運ばれたエスプレッソを、美しい仕草で一口飲んだ。

昼下がりの、都心のホテルのカフェラウンジ。

贅を凝らした照明から光が降り注ぐきらびやかな空間は、美しい麗奈によく似合った。
白いワンピースから伸びる長い腕は、春先に会った頃よりも灼けていて、真夏の太陽の下、大胆なふるまいで火照った肌を想起させた。
肩に乗った艶のある栗色の髪も、ちょっときつめの大きな瞳も、すべてが光を放つように美しい。

対して向かい側に座る環は、まるで麗奈が地面に投じた影のようだ。
オーガニックコットンの黒いワンピースで覆い隠した生白い肌、耳の下で真っ直ぐに切りそろえた黒い髪。太い黒縁の眼鏡だけが唯一、これと言った特徴のない地味な顔のなかで異様な存在感を発揮している。

「涼成の体ってね、脱ぐと一層大きく感じるの」
麗奈の唇の両端が引き上がり、端麗な笑みが浮かんだ。

涼成とは環と麗奈の高校時代の同級生で、今はフリーのカメラマンをしている男だ。
麗奈は続けた。

「どこを触っても筋肉ががちがちに硬いの。私のことも羽毛布団か何かを持つみたいにかるがる持ち上げて、お姫様抱っこでスタジオの仮眠用のベッドに運んだの。それでキスされたんだけどね。

涼成のキスって、優しいのよ。私、生まれたての子猫になったような気分だった。子猫が可愛くて仕方なくてひたすら舐めまわしちゃう母猫みたいなキスをするの。意外でしょ?

キスを首筋に降ろしながら、背中に回した手でワンピースのファスナーを下ろされて、ノースリーブの肩を下げて、あっというまに脱がされたの。ブラも器用にホックを片手で外して、気づいたらもう裸よ。ためらってる暇も与えないの」
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