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背徳は蜜の味
第2章 人妻その二 ~電車で痴漢されて~

稲垣美緒は隣に引っ越してきた夫婦が挨拶に来た時に手渡されたクッキーをおもむろにゴミ箱に投げ捨てた。

『なによ!夫婦揃って入居の挨拶なんて!
まるで半分未亡人のような私を嘲笑うかのようだわ!』

忌々しそうにゴミ箱から飛び出たクッキーの箱を睨み付けた。

いいわね、どこのご家庭も夫婦円満仲睦まじくて…
遠洋漁業の夫と世帯を持ちたいと両親に打ち明けたとき、とてつもなく反対された。

一年の半分も帰宅しない旦那と一緒になったところで長続きはしないと言われた。
その時は妻になるということでのぼせあがっていたのか、ひとりぼっちで生活していくのがこんなにも寂しいとは思っても見なかった。

これで子供でもいると
寂しさも紛らわせることが出来るのだろうけど、
夫が在宅の時にあれほどセックスに明け暮れても妊娠する気配もなかった。

もしかしたら夫は無精子症なのかもしれない。
いや、それとは逆に夫が正常でも自分に原因があって授かりにくい体質なのかも知れなかった。

なんにせよ、こうなるのは覚悟の上での結婚だったのだから自業自得なんだけれど、
それでも仲良く手を繋いで買い物にいく夫婦を見ると無性に腹が立った。

いけないわ…こんなことじゃ性悪女になってしまう…
気晴らしにどこかに出掛けよう…

そう思っておしゃれをして車に乗り込むと
これまた運悪く長いこと放置したままの車は見事にバッテリーがやられてしまいうんともすんとも言わない。

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