この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
背徳は蜜の味
第34章 人妻その三十四 ~保父さんとの一夜~
ヘマをしてしまった。
書類の不備があったとかで、OLの小栗瞳は夜遅くまで会社に残って残業をしていた。
一人娘の香は保育園に預けているけれど、
お迎えの時間はとうに過ぎていた。
申し訳ない気持ちで瞳は保育園に連絡を入れた。
「すみません、小栗香の母です…
残業でどうしてもそちらに迎えに行くのが遅れてしまって…」
「ええ、大丈夫ですよ
僕が香ちゃんの面倒を見ていますから
どうぞ急がずに気をつけてお迎えに来てください」
保育士の遠藤健さんが、焦る気持ちの瞳を落ち着かせるかのように穏やかな口調で対応してくれた。
瞳はシングルマザーである。
夫は香を出産する前に交通事故であっさりと他界した。
それなりの賠償金を頂いたけれど、
そのほとんどを夫と娘の三人で暮らすはずだったマンションのローンの残額に支払った。
マンションなんて手離して
今後の生活のために預金するべきだと回りの方たちから説得されたけれど、数ヶ月でも夫と暮らした部屋を手離すことなんて出来やしなかった。
幸いにもローンは賠償金や保険金でチャラになった。
後は瞳が必死に働けば、シングルマザーとして香を育てていける自信があった。
しかし、社会の一員として働くには
シングルマザーという足かせは並大抵ではなかった。
瞳もまた、シングルマザーを言い訳に仕事を疎かにもしたくなかったけれど、
その皺寄せは娘の香に背負わせてしまっていた。
ようやく残業を片付けて保育園に駆けつけた。
時刻は夜の10時を過ぎていた。
明かりがほとんど消えた保育園は
受付ロビーだけが仄かな明かりを灯して瞳を待ってくれていた。
「すいません!遅れてしまって!」
遅れるどころの話ではなかった。
夕刻6時のお迎えのはずが、4時間も超過していたのだから。
パタパタと廊下をスリッパの音を立てて
奥の明かりの消えた部屋から小走りで保育士の遠藤さんが応対に現れた。
「すいません!本当に申し訳ありません!」
腰を90度に曲げて、瞳は深々と頭を垂れた。
「いいんですよ、そんなに自分を責めないでください」
多分、瞳よりも年下の遠藤さんが
とても爽やかな笑顔で「困った時はお互い様ですから」と慰めてくれた。