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幻影の胡蝶 〜桃源郷の寵妃達〜
第2章 桃源郷は地獄だった
あの世の月は、生きていた世界で見る月より遥かに大きかった。




まるでここは月のすぐ近くにある惑星の様な。
そんな奇妙な錯覚にさえなった。

その月明かりの下。

胡蝶は朱雀の屋敷の中に潜り込んだ。





『あんた馬鹿ぁ?朱雀様の屋敷から『蘇りの玉』を盗むなんて!!』

胡蝶がその話をすると、舞鶴は信じられない汚物を見る目で胡蝶を見ながら叫んだ。





四天王の寵愛を受けて、『蘇りの玉』を貰う。

そんな正当法を取りたくなかったのだ。

『蘇りの玉はね、四天王様の霊力が入っていないと意味ないのよ。』





彼らが心から蘇らせたい。

そんな気持ちを込めなければ、玉はただの球体にすぎない。





『……でも、今はこれしか考えられない…。』

自分は愛を囁く事も、囁かれる事も受け入れられない。

玉を奪ってみたら、四天王達が折れて蘇らせてくれるかもしれない。





寵愛を受ける事なんかよりもずっと、胡蝶にとっては有意義な作戦だった。






『蘇りの玉』が置かれている場所はすぐに分かった。

角屋敷の神殿に、『蘇りの玉』は祀られていた。





この世界では、盗賊もいなければ争い事も無い。

少々寵愛達の小競り合いがあるだけだ。

そんな屋敷に警備が居る訳でも無い。





それにもし、何かあっても胡蝶は自分で切り抜けられると思っていた。





胡蝶は生前自衛隊に入隊して、所属は海軍だった。

1番初めにここの規律を海軍と比喩したのは経験からだ。

大抵のことは自分で何でもできる。

警備もない大きいだけの屋敷に入り込むなど朝飯前だった。






(気持ち悪い位に誰も居ない……。)






屋敷に入り込み、難なく最上階の神殿まで来て、胡蝶は初めてその静けさに嫌な感じを覚えた。






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