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天狐あやかし秘譚
第114章 天道是非(てんどうぜひ)
椅子から立ち上がり、扉の向こうに進む。
少し薄暗い部屋に入ると、背後で案内役の人が扉を閉める音がした。

部屋の中は意外に広い。
薄暗いと感じたのは、窓に厚手のカーテンが掛かっており、照明が若干落とされているからみたいだ。がらんとした部屋の奥に黒っぽい垂れ幕がかかり、これまた黒いレースのクロスがかかった横長の机がある。

その向こうに座っている黒色のベールを被り、光沢のある黒のロングドレスを身にまとった女性がSUKUSEだろうと思われた。

机の手前、離れたところに、木製のかなり立派な椅子がひとつ置かれている。

何も言われていないが、そこに座れということだろうな・・・

そう考えた私は、静かにそこに腰を掛けた。

「おや・・・いらっしゃいましたね?」

・・・ん?

「今日は、どういったことでいらっしゃいましたか?」
ベールから垣間見える赤々と紅が引かれた唇が、にこりと口角を上げる。

彼女の目の前には、白っぽい金属製の基部の上に複雑に絡み合った同じく白色の金属で形作られた台座の上に、私の顔ほどもある水晶球が据えられたものが置かれている。あそこから『未来を予知』するのだろうか?

「えっと・・・占ってほしいのは・・・父の形見の大事な万年筆をなくしてしまって。それが出てくるかどうか・・・。もし、できればどこにあるかも分かったらと思いまして」

これは実は本当だ。

私の父、浦原陽翔(うらはら はると)は大学の教授をしていた。私が大学に入ったことをいたく喜んでくれて、入学祝いにと中のインクが透けて見えるおしゃれな万年筆をプレゼントしてくれたのだ。

『これは、年に数回しか使わなくても使い続けられるから』

そう言って手渡してくれたことを覚えている。

しかし、綿貫亭への引っ越しのドタバタで見当たらなくなってしまったのだ。どこかの箱に入れた記憶はあるのだが・・・。

「形見の万年筆・・・わかりました。可能な限り形状、色、もしあれば外箱などの様子も詳しく教えてください。」

SUKUSEに言われ、私は万年筆の様子を詳しく伝えた。

「では、『視て』みます・・・少々お待ちください。」
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