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天狐あやかし秘譚
第116章 疑心暗鬼(ぎしんあんき)
今、敵方にある沖津鏡以外の神宝は『蜂肩巾』『足玉』『道返玉』『辺津鏡』『八握剣』そして『品々物之比礼』である。なんでもありの『品々物之比礼』を使われたらどうしようもないのだが、それ以外の神宝で人を気絶させるような力がありそうなのは、蜂肩巾(はちのひれ)か辺津鏡(へつかがみ)なのだという。

「蜂肩巾で虫の毒で意識を奪うってのはあるかもしれないが、その割には身体に外傷が見られへん・・・そうすると、辺津鏡か・・・?」

カダマシとイタツキによると、いつも緋紅の傍に控えていた女性は二人とも同じ顔をしており、同じような神宝を持っていたということだった。つまり、片方のスクセが沖津鏡を持っているように、もう一人の側近、キヌギヌは辺津鏡の使い手であると考えられるのだ。

昨日、高森が調べてきた文献、旧事紀天神遺紀には、『辺津鏡』は沖津鏡と双対をなす鏡の形をした神宝であり、同じ大きさで、裏が黒色をしているとのことだった。そして、その能力は『心の裏を見通し、夢幻に立ち入る』と書かれていたそうだ。

「おそらく、沖津鏡が遠くと未来を見て確定するのに対応する形で、心の裏・・・つまりその人がこれまで経験してきた記憶を覗くこと、そして心の内に入り込んでその有様を変化させる能力があると思われます」

そうか・・・つまりこの二つの神宝は二枚一対。
何もかもが対応しているのだ。

空間的な遠くを見る『沖津鏡』
⇔心の内を覗く『辺津鏡』

未来を確定する『沖津鏡』
⇔心の有様を変える『辺津鏡』

そんな具合だ。

心に干渉する神宝『辺津鏡』・・・もしそれが本当なら、すごく厄介な代物と言える。

だが、この対比により、更に推測ができることがいくつかある。

「おそらくこの二つの神宝は、その『限界』について共有していると思われます」

高森によると沖津鏡がダリの未来を確定できなかったように、辺津鏡もおそらくダリの心には干渉できないだろうと目されていた。

更に昨日からの進展として、これら二枚の鏡が持つだろうもうひとつの制限も見出された。

「この二つの神宝の能力発動には、使用者の視覚が重要な役割を果たしていると考えられます。」
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