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天狐あやかし秘譚
第116章 疑心暗鬼(ぎしんあんき)
☆☆☆
その部屋には明り取りがなかった。

『屋敷』と呼ばれている建物の中、その最奥に位置する部屋であり、主たる緋紅が使用していた。使用人などは『奥座敷』と呼び、神宝使いからは『父の間』などと呼ばれていた。

左右に灯る行灯の光が、部屋を妖しく彩っている。その上座の肘掛け付きの座椅子が緋紅の定位置だった。いつもは、その前に緋紅から見て右手にスクセ、左手にキヌギヌが座っているが、今日は二人とも不在だった。

「うん、うん・・・ああ、分かったよスクセ。キヌギヌは戻ってくるんだね?
 ああ、いいよ、そんなことは」

スマートフォンを片手に緋紅が話をしていた。
相手はスクセのようだ。その顔はなんとも言えない楽しそうな表情を浮かべていた。

「うん、スクセ・・・キミは僕の大事な『右腕』なんだからね。・・・そう、本来は『それ』を貸すのもね、躊躇したんだよ?いや、そういう意味じゃないよ。僕はね、心配しているのさ・・・。ああ、もちろんだ。天狐が死ねば、僕の計画はとてもやりやすくなるよ。」

左手でスマホを耳にあてがっているが、右手はカタカタと苛立たしげに肘掛けを叩いていた。顔は笑っているし、声は穏やかだけれども、その様子を見ると楽しそうに会話しているとはとても思えなかった。

「うん、分かった。無理しないでよ・・・ああ、僕のスクセ・・・愛しているよ」

プツッとスマホの通話が切れる。その瞬間、彼はそれを放り投げるように畳の上に転がし、大きく首を回していた。

「ふふっ・・・随分優しい声を出すね・・・ボクにはそんな声聞かせてくれたことないのに」

先程まで誰もいなかったはずの奥座敷の柱の一本に、ひとりの女性が腕組みをしたままもたれていた。背がさほど高くなく、160センチほどに見える。きれいに染め上げられた方にかかるほどの茶髪がまず目を引いた。

服装は全身をタイトな黒でまとめた、エッジの効いたストリートスタイル。短い丈のトップスからは、引き締まったウエストが惜しげもなく露わになっている。トップスのサイドにあしらわれたレースアップの紐が、彼女の細い腰をなぞるように垂れ下がっていた。

ボトムスもまた、太腿にスリットのようなカッティングが入ったショートパンツであり、大胆に肌が露出されている。
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