この作品は18歳未満閲覧禁止です
- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
恋人岬には噂があった
第2章 第2話
その日、野上はアパートに戻っていた。由香の様子を見れば一目瞭然だった。修学旅行の通知があったようである。由香は帰ってくるなり、飯台のそばであぐらをかいた野上の前に座ると、ランドセルからそれを取り出した。由香は満面に笑みを浮かべた。由香は嬉しそうに言った。
「お父さん、ほら見て、修学旅行だよ」
通知を手にした野上は、にこにこして由香を見た。
「良かったな由香。どこへ行くのかな?」
「あのね……」
──翌日の深夜である。
野上が日本海側を走っているとき、携帯が鳴った。野上の父親、定義からだった。
「英二か、いま電話は大丈夫か」
「大丈夫だよ、なに?」
「話は、英二が戻ってからだ。べつに心配することじゃないんだ。で、いつ戻る?」
「九州と、他にも行かなきゃなんねえから、四日後だな」
「じゃあ戻って来たら電話をくれ。安全運転でな」
──四日後の深夜である。野上は定義の自宅にいた。
その夜、野上が定義から聞いた話では、電話があった四日前の深夜、由香は泣きながら定義の自宅まで自転車で来ていた、と教えてくれた。
そのとき由香が泣きながら言うには、お金が無いから修学旅行には行けない、と母親から言われた、と野上は定義から聞いた。
思えば、野上がこの仕事に転職してから、お母さんの両親がアパートに来るようになった、と由香から聞いたことがある。母親の弟まで現れた、とも聞いた。しかしすぐに口止めされたのだろう。
野上は思った。振り込まれる給与は全て幸江に任せていた。幸江の親兄弟は、金が目当てでアパートまで来ていたのだ。由香の言葉に気づいていれば夢は消えず、由香の心が傷つくこともなく、こういう結果にはならなかったはずだ。俺は誰のためにこれまで働いて来たのか。──ナメやがって。
野上は、定義の話を黙って聞いていた。
定義が電話をくれた四日前の深夜には、由香の修学旅行は、お父さんが必ず行かせてくれるから大丈夫だ、心配しなくていい、と定義は由香に言ってくれていた。アパートに帰りたくないと言う由香を、その日の夜は自宅に泊まらせ、翌日早くにアパートに送って行った、とも聞いた。
野上がそれらのことを聞いた後である。定義は妻に目配せして封筒を受け取った。そして、その封筒を野上に渡してくれた。由香の修学旅行の費用だった。
「お父さん、ほら見て、修学旅行だよ」
通知を手にした野上は、にこにこして由香を見た。
「良かったな由香。どこへ行くのかな?」
「あのね……」
──翌日の深夜である。
野上が日本海側を走っているとき、携帯が鳴った。野上の父親、定義からだった。
「英二か、いま電話は大丈夫か」
「大丈夫だよ、なに?」
「話は、英二が戻ってからだ。べつに心配することじゃないんだ。で、いつ戻る?」
「九州と、他にも行かなきゃなんねえから、四日後だな」
「じゃあ戻って来たら電話をくれ。安全運転でな」
──四日後の深夜である。野上は定義の自宅にいた。
その夜、野上が定義から聞いた話では、電話があった四日前の深夜、由香は泣きながら定義の自宅まで自転車で来ていた、と教えてくれた。
そのとき由香が泣きながら言うには、お金が無いから修学旅行には行けない、と母親から言われた、と野上は定義から聞いた。
思えば、野上がこの仕事に転職してから、お母さんの両親がアパートに来るようになった、と由香から聞いたことがある。母親の弟まで現れた、とも聞いた。しかしすぐに口止めされたのだろう。
野上は思った。振り込まれる給与は全て幸江に任せていた。幸江の親兄弟は、金が目当てでアパートまで来ていたのだ。由香の言葉に気づいていれば夢は消えず、由香の心が傷つくこともなく、こういう結果にはならなかったはずだ。俺は誰のためにこれまで働いて来たのか。──ナメやがって。
野上は、定義の話を黙って聞いていた。
定義が電話をくれた四日前の深夜には、由香の修学旅行は、お父さんが必ず行かせてくれるから大丈夫だ、心配しなくていい、と定義は由香に言ってくれていた。アパートに帰りたくないと言う由香を、その日の夜は自宅に泊まらせ、翌日早くにアパートに送って行った、とも聞いた。
野上がそれらのことを聞いた後である。定義は妻に目配せして封筒を受け取った。そして、その封筒を野上に渡してくれた。由香の修学旅行の費用だった。