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恋人岬には噂があった
第3章 第3話 最終章
「実は、俺にも出会いがあったんだ。恋人岬のおかげだよ。これは偶然かも知れないけれど、噂は信じてみるもんだな、相手が若い女でも積極的になれるから」
 野上がそう言うと、河合は箸を止めて目を丸くした。
「え、若いって、相手は何歳ですか?」
「今年大学を卒業したばかりだから、沙織と同い年だ」
「おめでとうございます。早く言ってくれれば良かったのに」
「いや、確実じゃなかったから言えなかったんだよ」
「それ、分かります。でも、積極的にアプローチ出来る気持ちになりますよね」
 と河合は言って、中睦まじい事務所の二人に眼を向けた。
「だから、沙織ちゃんにも今の状況があるんだな」
 独り言のような河合の言葉に、野上も二人に眼を向けた。
 今夜は、雨の週末になりそうである。土砂降りの雨の夜には、夜を徹して二人に何かが起きそうでもある。月曜日の朝に沙織と会ったとき、確実に色気が増しているように思う野上であった。

 今日の野上は、午後五時半には既に帰宅していた。
 シャワーを浴び終えると、野上は自分の部屋で出かける用意をしながら、窓の外に眼を向けた。眺める外は雨が止まず、海は雨に煙っていた。
(雨の夜に初めての食事で、しかも彼女の手料理だ。奈々は極上の体だから、ちょっと趣向を凝らした裸エプロンが似合うと思う。裸エプロンの背後からするのはどうだろう──。それに、おおよその察しはつくのだが、食事をしながら、彼女に恋人岬の噂のことも訊いてみよう)
 そんなことを考えて、野上は自宅のドアをロックした。
 野上は傘をさして車庫に向かった。自宅からだと、雨天でも携帯ショップまでは十分も要しないが、車を走らせながら、プランを練ることにした。
 裸エプロンは次回に残しておくとして、今夜はお口の特訓と左利きの技を、まずは敷き布団の上でじっくり仕込む考えである。仕込んだ次に、もつれるような展開になったとき、お口と左手は官能的な動きをすると思うのだ。彼女はそのとき、既にM的なゾーンに入っているように思う。
 昨夜は指図通りに尻を回した奈々だった。そのときの快感が忘れられず、今夜は彼女のペースに巻き込まれそうな気もしなくはない。いわゆる暴走ゾーンという状態である。
 だが、いくら奈々におねだりされたとしても、今夜の野上は自分の考え通り、まずはお口の特訓から仕込む考えである。

     (おわり)
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