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恋人岬には噂があった
第2章 第2話
「英二、もし別れる気があるならお前が由香を育てろ。アパートは引き払い、二人でこの家に来ていい。由香は俺たちに任せておけ。会社の給料はいいんだろ? いまの会社で懸命に働き、もう一度出直してみることだな。ただ、再婚する気があるなら、由香と俺たち夫婦のためにも、礼儀正しいご両親を選んでくれ」
定義の言葉に、英二は黙って頷いた。しかし英二が無口になり、態度が変わっていることに、定義は気づいたようである。
「じゃあアパートで由香が待ってるから、俺は行くから」
「英二、相手を呼び出しても、由香のためにも自分の人生が終わることだけはするんじゃない。夢もあるんだろ? 由香はそばにいるんだ、わかったな」
野上が、過去をそこまで思い返したときである。洗濯機の影が映るサッシの向こうから、ドアの音が聞こえた。
野上はサッシに映る影を見た。由香が自分の洗濯物を取り出している。
由香の影を眼にしていると、過去の出来事が、野上の頭に断片的に浮かんで来た。
(──親父から修学旅行の費用を受け取り、アパートに帰ったあの日の夜。由香は泣きながら幸江に、お父さんは毎日毎日一生懸命働いているのに、と言った。お父さんが働いているの見たことないよね。お父さんは夜中も運転しているんだよ。幸江は俯いて涙をこぼしていた。ごめんなさい。両親や弟はお金に困っていて、頼まれると断れなかった、と声を震わせていた)
野上は、自分はアパートに戻っていないことにして、相手を呼び出すのは幸江に電話させた。
アパートの前の駐車場に車が停まり、笑い声が聞こえた。あと二日は帰って来ないと言ったから、今夜も朝まで呑むぞと話し声が聞こえ、玄関が開いた。
足を踏み入れた義理の弟の血相が変わった。
野上が外を見ると、アパートの前にいい車が停めてある。
野上は、自分の行いを由香に見せたくはなかった。玄関を閉めて、アパートから離れた場所に三人を連れ出した。
野上は振り向きざま、幸江の弟を殴り倒した。いい腕時計を付けた手首が見えた。
少しして、幸江の弟は体をふらつかせて地面に座り込んでいる。そして車のキーを取り出し、腕時計を外し、両手で差し出して来た。
野上はそれを蹴り上げた。
野上は相手に目を開けさせ、何発も殴った。血が飛び散った。幸江の両親が体を震わせている。二人は声も出ないようである。
定義の言葉に、英二は黙って頷いた。しかし英二が無口になり、態度が変わっていることに、定義は気づいたようである。
「じゃあアパートで由香が待ってるから、俺は行くから」
「英二、相手を呼び出しても、由香のためにも自分の人生が終わることだけはするんじゃない。夢もあるんだろ? 由香はそばにいるんだ、わかったな」
野上が、過去をそこまで思い返したときである。洗濯機の影が映るサッシの向こうから、ドアの音が聞こえた。
野上はサッシに映る影を見た。由香が自分の洗濯物を取り出している。
由香の影を眼にしていると、過去の出来事が、野上の頭に断片的に浮かんで来た。
(──親父から修学旅行の費用を受け取り、アパートに帰ったあの日の夜。由香は泣きながら幸江に、お父さんは毎日毎日一生懸命働いているのに、と言った。お父さんが働いているの見たことないよね。お父さんは夜中も運転しているんだよ。幸江は俯いて涙をこぼしていた。ごめんなさい。両親や弟はお金に困っていて、頼まれると断れなかった、と声を震わせていた)
野上は、自分はアパートに戻っていないことにして、相手を呼び出すのは幸江に電話させた。
アパートの前の駐車場に車が停まり、笑い声が聞こえた。あと二日は帰って来ないと言ったから、今夜も朝まで呑むぞと話し声が聞こえ、玄関が開いた。
足を踏み入れた義理の弟の血相が変わった。
野上が外を見ると、アパートの前にいい車が停めてある。
野上は、自分の行いを由香に見せたくはなかった。玄関を閉めて、アパートから離れた場所に三人を連れ出した。
野上は振り向きざま、幸江の弟を殴り倒した。いい腕時計を付けた手首が見えた。
少しして、幸江の弟は体をふらつかせて地面に座り込んでいる。そして車のキーを取り出し、腕時計を外し、両手で差し出して来た。
野上はそれを蹴り上げた。
野上は相手に目を開けさせ、何発も殴った。血が飛び散った。幸江の両親が体を震わせている。二人は声も出ないようである。