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恋人岬には噂があった
第1章 第1話
「こんばんは。野上さん、お久しぶりです。お返ししたスマートフォンはどうですか?」
(──そうだった。胸に研修生の名札をつけていた、あのときの左利きの店員だ)
彼女は、この町の携帯ショップに勤める新人で、一ヶ月以上前に野上がスマホを修理に出したときの担当、研修生の坂井奈々である。ショップで初めて対応してくれたときには、左手で器用に書けるものだと思ったことがある。
「以前ショップで二度会ったけど、左利きで、奈々ちゃんだったよね。だけど、髪は後ろに束ねてないし、制服じゃないから見違えて誰かと思った。スマホはもちろん直ってる。研修は終わった?」
以前とは別人のような奈々に、野上は驚いた。容姿からしてまったく違っていたからである。
「はい、奈々です。左利きだから、私のこと覚えていてくれたんですか?」
と、彼女は手を口もとに添えてくすくす笑った。携帯ショップを訪れた客からも、同じようなことを言われるのかもしれない。
「研修は無事終了しました。だけど私ってそんなに変わります? あの髪型は仕事のときだけなんです。ところで、誰と見間違えたんですか? でも直っててよかったです」
奈々が笑みを浮かべて喋っているとき、野上は彼女の唇にも魅力を覚えた。爽やかで、清純そうな唇だと感じたからである。
「──誰って、写真集に載るような可愛い女の子だよ」
ちょっと慌てたように野上が言うと、奈々は目を細め、手を口もとに添えてクスッと笑った。その仕草は癖のようでもある。
まるで青春ドラマのワンシーンのような彼女の笑みに、恋人岬での願い事が、野上の頭によみがえって来た。清純な女との出会い。噂は本当だったのだ。
野上は、奈々と顔を見合わせると、カキフライとから揚げのパッケージを自分の買い物かごに入れた。彼女もすぐに自分の買い物かごに入れている。若いけれど、気の合いそうな女だな、と野上は思った。
そのあと、野上はスマホの状態を話しながら、二人でひとの邪魔にならないところまで歩いた。
修理後の調子を伝えたあと、野上は買い物かごからスマホを取り出した。そして、もう一度確認してみる? そう言って彼女の前に出した。
(──そうだった。胸に研修生の名札をつけていた、あのときの左利きの店員だ)
彼女は、この町の携帯ショップに勤める新人で、一ヶ月以上前に野上がスマホを修理に出したときの担当、研修生の坂井奈々である。ショップで初めて対応してくれたときには、左手で器用に書けるものだと思ったことがある。
「以前ショップで二度会ったけど、左利きで、奈々ちゃんだったよね。だけど、髪は後ろに束ねてないし、制服じゃないから見違えて誰かと思った。スマホはもちろん直ってる。研修は終わった?」
以前とは別人のような奈々に、野上は驚いた。容姿からしてまったく違っていたからである。
「はい、奈々です。左利きだから、私のこと覚えていてくれたんですか?」
と、彼女は手を口もとに添えてくすくす笑った。携帯ショップを訪れた客からも、同じようなことを言われるのかもしれない。
「研修は無事終了しました。だけど私ってそんなに変わります? あの髪型は仕事のときだけなんです。ところで、誰と見間違えたんですか? でも直っててよかったです」
奈々が笑みを浮かべて喋っているとき、野上は彼女の唇にも魅力を覚えた。爽やかで、清純そうな唇だと感じたからである。
「──誰って、写真集に載るような可愛い女の子だよ」
ちょっと慌てたように野上が言うと、奈々は目を細め、手を口もとに添えてクスッと笑った。その仕草は癖のようでもある。
まるで青春ドラマのワンシーンのような彼女の笑みに、恋人岬での願い事が、野上の頭によみがえって来た。清純な女との出会い。噂は本当だったのだ。
野上は、奈々と顔を見合わせると、カキフライとから揚げのパッケージを自分の買い物かごに入れた。彼女もすぐに自分の買い物かごに入れている。若いけれど、気の合いそうな女だな、と野上は思った。
そのあと、野上はスマホの状態を話しながら、二人でひとの邪魔にならないところまで歩いた。
修理後の調子を伝えたあと、野上は買い物かごからスマホを取り出した。そして、もう一度確認してみる? そう言って彼女の前に出した。