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恋人岬には噂があった
第3章 第3話 最終章
 玉川は、来週半ばに始まる松井町の現場ですと言って、封筒から書類と写真、コピーした地図を取り出し、それをテーブルに広げて話し始めた。
「ここが、峰川上流の安田橋を松井町の方へ渡った現場です。ミキサー車の待避所は、現場内に一台、この場所にはガードマンをつけるので、ここには二台停めることができます。現場までは片道三十分くらいです。基礎は……」
 玉川の説明を聞いて、野上には全てが手に取るように分かった。地図には目印となる大きな建物や、コンビニも記してあった。それに、スランプや骨材の詳細は書類に記載されてある。
 そのとき、沙織がお茶を入れて来たので、野上は二人を観察することにした。
 どうぞと沙織は言って、玉川の前のテーブルにお茶と茶菓子を置いた。玉川は黙って頭をさげている。
 だが、野上はおや? と思った。同じく野上の前にも置いた沙織が、そのあと玉川をちらちら見ているのだ。野上はこのとき、アヒル口から派生的に考えた自分の推理は正しかったと確信している。
 それに、野上はこういう状況もあろうかと、プラントを河合に任せたとき、昨日見た沙織のアヒル口の心理は、こうではないだろうかと、河合に意見を求めている。そのときの河合は、週刊誌の答えと同じですと言った。そのときから、野上と河合は黙って二人を観察していこうと決めたのである。
 野上は、時計をちらと見て話しかけた。
「沙織ちゃん、この地図と写真は来週からの現場なんだ。いつものようにコピー頼むよ。ところで玉川さん、お弁当持って来てますか?」
「はい、車に置いています」
「じゃあ、事務所でゆっくり食べていってはどうですか?」
 野上の言葉に、玉川もちらと自分の腕時計を見た。
「そうですね。そうします」
 玉川の返事に、沙織が一瞬微笑んだのを野上は見逃してはいない。二人きりにしてあげようと思った。
 時刻は正午になっていた。
 河合は、野上と制御室で弁当を食べながら、事務所の二人をちらちら見ている。
「野上さんの言った通りですね。あの無口な玉川さんが愉しそうに喋ってますよ」
「うん。二人はお似合いってことだよ。今後は二人を観察するのが楽しみだ」
「でも俺は、野上さんには、沙織ちゃんがお似合いだと思っていたんですけどね」
 河合からそう聞いて、野上は話してあげることにした。
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