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年の離れた妹
第2章 アパート
「えっちゃん、今夜はどうしたの?」
「…うん、どうもしないよ」
僕の言葉に妹は泳ぐ真似を止め、こちらに顔を向けた。外の明かりだけでも、妹の大きな目が潤んでいることはよくわかった。

「兄ちゃんも一緒に泳ご!」
妹はそう言うと手を伸ばし、恵津子に貸すTシャツを手に持った僕の手を引っぱった。そして恵津子は裸身を起こすと僕に抱きつき、そのままふたりともベッドに倒れ込んだ。部屋の中にドスンと音が響き、恵津子に引っ張られ僕の腰のタオルが外れた。

「えっちゃん、大きな音を立てると近所に怒られるよ!」
僕はまだ理性を保つため、しっかりした兄を演じていた。しかし妹は僕に抱きつくと、急に声を上げて泣き始めた。

「ごめん、兄ちゃん。ごめんなさい…」
謝ったまま泣き続ける妹を、仕方なく僕は抱き締めた。まったく風のない蒸し暑い夜で、僕たちはまた汗まみれになっていた。恵津子は僕の胸に顔をうずめて泣いていた。僕は少しの間、黙って妹の背中をさすってやった。その間、僕は小さいころの恵津子を思い出していた。

「せっかくシャワーしたのにな…」
妹が泣きやみ落ち着きを取り戻したころ、僕はやっと口を開いた。胸の中の妹は抱かれたまま、小さな声で返事をした。

「うん、ごめんね…」
「もう、ごめんはいいよ…」
そう言って頭を撫でてやると、恵津子は顔を上げた。思いのほか外が明るく、明かりを消した部屋の中でも恵津子の顔がハッキリ見えた。

「えっちゃん…小さいころのままだな」
恵津子は僕の言葉に、泣き顔からはにかんだ笑顔に変わっていった。化粧を落としたその顔を、ちいさいころのえっちゃんそのままだった。そして涙の跡と一緒に、口の端からよだれが垂れていた。僕は思わず微笑んでいた。
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