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第3章 女中　千勢（ちせ）

　千勢とは、上州高崎で医院を開いていた両親を早くに亡くしてから、父親の友人の紹介で「西片向陽館」に奉公に入った女中で、学費を貯めて女子医学専門学校に進学し、いずれ高崎で医院を再興することを目指して、現在は受験資格を得るために夜間女学校に通っている。

　「有難うございます。千勢は、相変わらず頑張っているようですね。それでは、幸乃さんのお心遣いに甘えさせてもらいます。」　と応えながら、富田は洗い椅子に腰かけた。

　幸乃は、富田の髪と体を手際よく洗った後、掛け湯をしてから、　「長旅で肩も凝っていらっしゃるようで。」　と言って、手拭いを広げて富田の肩に掛け、首の付け根から背中の肩甲骨の周りを丁寧に揉んでいった。