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東京帝大生御下宿「西片向陽館」秘話~女中たちの献身ご奉仕
第3章 女中 千勢(ちせ)

千勢は、 「お帰りなさいませ。ご主人様。」 と言いながら、指を突いてお辞儀をした後、サイドテーブルに載せたトレーの上で、カモミールのハーブティーをポットからカップに注いだ。ミントン製のティーセット独特のたんぽぽ模様が、寝間着の薄紅の花柄や、半纏の淡い黄色と緑の絣(かすり)紋と馴染んで、千勢の可憐さが際立った。
富田は、革ソファーに浅く腰かけ、上半身を後に倒して背もたれに頭を置いて、長旅と長湯の後の気怠さを振り払うように、両手を挙げて大きく背伸びをしてから、深々と座り直した。そして、ハーブティーを口にしてから、二つの袋を千勢に渡した。
「上海のおみやげだよ。幸乃さんには私からお話ししてあるので、遠慮なく受け取っていいから。」
「まあ、有難うございます。ご主人様。早速に開けてもよろしゅうございますか。」 と、千勢は嬉しそうに富田を見上げ、その返事も待たずに、無邪気に小さい袋の方から開け始めた。

