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獄中婚
第1章 1
うちの店には勝手口はない、ないというより正確には機能しない扉だからいつも出入はお客さんと一緒で正面入口からする。外に出るといつもお客で賑わっている出入口はすっからかんになっていて私も店長も驚きを隠せずにいた、どうやらりりが私達は帰ったということにしてくれたらしい、出入り口が機能していないことは一般には伝えていないから「裏口から帰ったよ〜」とでも言ってくれたのだろう。おかげでタクシーがいるところまでお客に会うことなくたどり着けた。
「りりもいい所ありますね」
「そうね...少し見直したかも」
「もう少し勤怠が良くなってくれたら最高なんですけどね」
「ほんとにそうなのよ〜」
店長は作り笑顔を振りまき緊張を溶かそうと会話を続けてくれる。タクシーは何度か角を曲がり交番の前を通り過ぎ停車した。料金は店長が払ってくれたのでお礼を言い、共に2階の205号室へ向かっていった。201号室、202号室と徐々に自分が泊まる部屋に近づいて行く途中様々な声が聞こえてきた。喘ぎ声、怒声、泣き声....いくら夜の世界で働いているとはいえまだ知らないことだらけだった私には衝撃的で階段から部屋までは数秒なのに妙に緊張して部屋のベットに座る頃にはどっと疲れが溜まってしまっていた。
「大丈夫?そうだよね、疲れちゃうよね」
「はい、ラブホテルなのでそういう行為の声は聞こえるのはわかるんですけどあんなに激しく怒った声とか泣いた声なんて聞いた事なくて」
「だよね....ここはね交番から近いからよく別れ話の場に使われたりグレーなことが行われたりするのよ」
「別れ話であんなに喧嘩するものなんですね....」
「そうね、ただの恋愛だったらしないだろうけど本気で好きなのに何年も待ってそれなのに捨てられたら感情も表に出ちゃうんじゃない」
「.......」
「なんで私は選ばれなかったんだろうって思うと辛いしね」
「そう....ですね」
「ま、他人のことなんだし、気にする必要ないわ」
「はい、わかりました」
一瞬いつかの日を思い出すようなそんな顔をした店長だったが部屋を出る頃にはいつもと変わらないきらびやかな表情に戻っていた。
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