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感情の欠片
第1章 過去
「あまり笑わない子だね」
子供の頃、よくそう言われたものだ。
近所の人や学校の先生から、何度か耳にした言葉だった。

両親も気にしていたのだろう。特に母は、私が笑わないと、どこか寂しそうな顔をした。
今なら、あれが悲しみだったとわかる。
当時はただ、その表情を直視するのが苦手だった。
胸の奥に小さな棘が刺さるような感覚がして、目を逸らしたくなるだけだった。

だから、私は笑顔を練習した。
ドラマや映画を観て、人が笑う場面や泣く場面をじっくり見て、真似てみた。
最初はぎこちなくて、鏡の中の自分に違和感しかなかったけれど、少しずつ自然に近づいていった。

小学校高学年になる頃には、上手く笑えるようになっていた。
両親の表情も明るくなって、母は「最近楽しそうね」と穏やかに微笑むようになった。
それは良かったと思っている。
ただ、今ふと思うのだ。
心のどこかで、本当の笑顔がどんなものなのか、わからなくなったままなのではないかと。
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