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わたしの放課後
第7章 すれ違う人たち
 《母親も母親よね。娘が今日はゴム無しでセックスできるかどうかってこっそり体温なんか計ってることも知らないで。そもそも、老人の家に入り浸ってセックスしまくってるのも知らないで。そんなボンクラだから、自分も若いツバメと間男してるのが思いきり娘にバレちゃってんだから。娘にバレて涙目でおとうさんには黙っていてって哀願したんでしょ。娘も娘なら母親も母親ね。こんな娘、はやく腹ボテにでもなって、青くなったらいい気味だわ。そうそう、母娘《おやこ》揃ってボテ腹抱えてふうふう言ってればいいのよ…》

 顔が火照り動悸が早くなる。なんなの、この人…。

 《古本屋に入り浸って文学少女なんか気取ってるけど、読み漁ってるのはエロ本ばっかりじゃないの。しかも、気に入ったエロ本はこっそり自分の家にまで持ち帰って。枕元にズリネタならべて毎夜毎夜なにしてるのかしらね。もっと運動するとか、健全な生活をおくるって思わないのかしら。ああ、やだやだ…》

 わたしは苦し紛れに、罵詈雑言を浴びせてきた人に悪態をつく。

 《あ、あなただって、見事なボテ腹じゃないですか。しかも子供まで連れて。よく街なんか歩けますよね。わたし男の人とセックスして子供産みました…って見せびらかしてるなんてどうかしてます。どうせ、ヤリたくなってなりゆきでセックスして孕んでしまったんでしょう。しかも一度ならず二度までも。そんなふうにならないように、ちゃんと自分の体調も管理してきちんと避妊もしてるわたしのほうがよっぽどマシだと思いますけど。それに、おじさんは『ただの老人』なんかじゃありません。優しくて、いろいろ知ってて、いつもわたしのことを気にかけてくれて…。お母さんだって…》

 女の人は《勝手に言ってなさい》みたいにわたしを蔑むような表情を浮かべて行ってしまった。

 …イヤな夢を見てしまった。ほんとにひどい夢。でも、当たってもいる夢。やっぱり、自分のことを後ろめたく思っているからこんな夢を見てしまったのだろう。おじさんのことは反論していたけど、お母さんのことへの反論はどう言うつもりだったのだろう…。

 それにしても『ズリネタ』に『ボテ腹』って。借りてきた本がよくなかったみたいだけど、とても品があるとは言えない用語がわたしの記憶の引き出しにしっかりしまわれていることがわかってしまった。寝言で口走ったりしないか心配になってしまう。
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