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わたしの放課後
第12章 床上手
 「きょうはこれお借りしますね」

 服を着て文机に置いていた本をおじさんに見せる。

 「歴史ものが揃ってるね。恵子ちゃんは、花魁の素質があったかもしれないね」

 おじさんがお茶を淹れてくれる。

 「無理じゃないかな…。花魁さんってかなり選ばれた人っていうイメージですけど」

 おじさんが『遊女の本』を手に取るとページをめくって何かを探している。

 「ああ、あったあった。遊女は『一に顔、二に床、三に手』って言ってね。一番は見た目のこと。恵子ちゃんは申し分ないよね」
 「そんなことないです」
 「ふふ。二番目は…」
 「『床』って…そういうこと…ですか?」
 「そう。さすが察しがいいね。お客を悦ばせる行為やテクニック、つまりは『床上手』ってことだね」
 
 わたしはいつもおじさんに優しく抱いてもらっているだけ…。

 「わたし、全然『床上手』じゃないです」
 「はは。なにも教えていないからね。でも、なにも教えていないのに恵子ちゃんは『床上手』だよ。恵子ちゃんが優しく迎えてくれているだけで、気が付くと恵子ちゃんの中で気持ちよくなってしまっている。テクニックもなにも駆使するまでもなくね」
 「なんだか恥ずかしいです…おじさんは、悦んでくれてますか…?」
 「もちろん。おじさんをいつも幸せな気持ちにさせてくれるもの。今日もほら…」

 ついさっきまでのセックスを思い出してちょっと恥ずかしそうにしているおじさん…。

 「恵子ちゃんがいろいろ覚えていったら…おじさん、もう相手にならないね」
 「そんなことないです」
 「ははは、ありがとう。あとは三番目の『手』。泣いてみせたり、拗ねたり、妬いたり、甘えてみたりして客を虜にさせる手練手管のことだけど、なおさら恵子ちゃんには必要ないかもしれないね。『手練手管』なんて」

 おじさんがわたしの『虜』になっているとは思えないけど。むしろわたしのほう。
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