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誰にも言えない、紗也香先生
第6章 アリス
三階へとたどり着いたとき、
私は、ひとつずつ、静かに解かれていった。
革の手錠が外れ、赤いベルトが緩み、
体の奥でひっそりと息づいていた黒いものも、やがてそっと──。

解放された身体に、リザが差し出したのは、
午後の陽射しを受けてやわらかく光る黒のシルクガウンだった。
絹の波が、指先からすべるように流れていく。
その手触りはまるで、午後の夢に触れるような──そんな優しさ。

私はそれを静かに羽織り、
胸元の細いリボンを、震える手で結んだ。

そして、ドアが開いた。

ドアが開かれると、そこには、
午後の光がふんわりと差し込むティールームがあった。
絹のカーテンがやさしく揺れ、
淡い紫のソファーには、すでに紅茶が用意されていて、金色の茶器がきらめいていた。

「これはね、ゴールデンチップス。午後のロイヤル・アッサム」
リザが微笑み、私にもカップを差し出す。

そっと口元に運ぶと、
ほんのり渋く、どこか甘いその味が、
心の奥へと静かに染み込んでいった。

まるで午後の陽だまりが、
胸の奥にそっと灯ったような──そんな気がした。

ほどなくして、二人のメイドが銀のトレイを運んできた。

一つは、七色の層をもつ夢のようなロールケーキ──「ヘブン」。
もう一つは、闇を閉じ込めたような小さなフォンダンショコラ──「バウンド」。

「どれが、今のあなたにふさわしいかしら?」

私は迷わなかった。
指が自然と伸びたのは、チョコレート。
内側に熱いものを隠し持つ、小さな黒のケーキ──「バウンド」。

リザも同じものを選び、ふふ、と笑った。

ナイフを入れると、中心から濃厚なチョコレートが溶け出し、
まるで私たちの内に秘めた秘密のように、静かにテーブルに広がった。

その味は、甘くて、少し苦くて──
そして、ほんのり熱を帯びていた。
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