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誰にも言えない回顧録
第3章 28歳 大学職員~続編
帰宅の道すがら。
私はずっと彼の最後の視線を思い返していた。

ほんの一瞬、胸元を刺すように見つめていたあの眼。
その時彼は何を思っていたのだろう。
私の言葉はどう受け止められたのだろう。
思いを巡らせ火照った頬に、夜風が冷たく感じた。

母は既に帰っていたが、就活帰りと思ったか遅帰りを見咎める様子もない。
自室で部屋着に着替えた直後、彼からメッセージが届いた。
私への返信ではない形でメッセージが来たのは初めてだった。
「もしよかったら..明日の昼間、お時間ありませんか」
いつも会う場所からは少し離れた、ターミナル駅の改札。
午後から夕方にかけて会うのがお決まりだったのに、午前中の早い時刻が指定されている。

話を持ち掛けたのは私なのだ。
喜んで、とメッセージを返す指が震えていた。


随分と長い間、自身の肉体を意識する機会はなかった。
過去を忘れていた、わけではない。
考えないように、思い出すきっかけすら作らないように過ごしてきたのだ。
何か湧き上がりそうになったとしても、そこに蓋をし続けていたのだ。

ベッドに横になる。
久しぶりに自慰の衝動に強く駆られた。
でも。
憚られる。
明日彼に会うまでは、してしまってはいけないことのように思えた。


翌日。
前日とは違うスーツを着ていくことにした。
無意識に選んだ下着が妙に煽情的であることに慌てて、無難なものに着替える。

待合せ時刻より少し早めに向かったが、着いてみると彼は既にそこにいた。
互いにどうにもぎこちない。
それもそのはず。
その日の私たちにはもっともらしい待合せの名目がない。
まだどこへ行くかも申し合わせていなかった。

行きましょう
私を促し、彼が構内のエレベーターに向かって歩き出す。
取り出したカードをタッチすると上階のボタンが点灯する。
案内板を見ると、行先は駅ビル上階直結のビジネスホテル客室階だった。

通勤時間を過ぎて人影はまばら。
乗り合わせた人もおらず、二人だけを乗せたキャビンがせり上がってゆく。
途中から窓外に駅前のロータリーが見下ろせる景色が開ける。
たまにデイユースで利用してるんです
彼が静かに呟いた。

宿泊客だけが上がれるフロア。
重厚なカーペットが敷かれた廊下を奥に進む。
彼が持っていたカードキーをセンサーにタッチした。
低い作動音を立てて、電気錠が開放された。
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