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誰にも言えない回顧録
第3章 28歳 大学職員~続編
彼が続いて入り、自動的に閉まったドアが再び作動音を立てて施錠される。
目に飛び込んできたのは、大きなダブルベッドにその奥の丸テーブルとラウンジチェア。
窓外には、先刻眺めたのと逆方向のオフィス街が見下ろせている。

自分から持ち掛けたくせに、その時点で私は緊張と動揺を隠せなくなっていた。
すっかり親しみを感じているとはいえ、赤の他人である男性と二人。
カラオケボックスやレストランの中で隔離されているのとはまた訳が違う。
窓際のチェアに腰かけて向き合うものの、何を言ったらいいか分からないまま混乱する。

ありがとうございます、嬉しいですよ
彼が唐突に不思議な言葉を発した。

こんなところへ連れてこられても嫌がらずに二人きりになってくれて
それだけでもう十分お礼をいただいた気持ちです
戸惑う私に構わず彼はそう言って微笑んだ。

少しのんびりしませんか、楽にしてください
彼は慣れた様子で着ていたジャケットを脱ぐと備え付けのハンガーにかけた。

ずっと彼が手にしていた紙袋。
何が入っているのだろう、と思っていたその中からコーヒーのドリップバッグが取り出された。
備え付けのポットでお湯を沸かし、コーヒーを入れてくれる。

どうぞ
お昼ご飯も勝手に用意しました
ルームサービスも使えるそうなんですけど人が来るのもちょっと抵抗あるでしょ?
そんなことを言いながら美味しそうなベーグルサンドイッチやクッキーまでテーブルに並ぶ。

これでは...今までの時間の延長になってしまう。
彼にそれ以上の何か、を切り出したそうな雰囲気はない。
つい緊張を忘れ安心してしまいそうになる自分がいる。
でも。
拍子抜けした気分と同時に、少々焦りに似た感情も湧いてくる。

それでも彼が醸し出すいつもと何も変わらない柔和な空気に絆され、葛藤しながらもついつい楽しいおしゃべりにつられてしまう。

そのままお昼時になり、用意してくれていたサンドイッチを一緒に食べた。
楽しいけれど。
こうしてもいたいけれど。
内心の葛藤がピークに達していた。

あの..私..お礼を...!
つい語気が強くなる。
彼はそれを聞いてちょっぴり困ったような表情を浮かべ、穏やかに言った。
こうして過ごせているだけで十二分に楽しいんです
ね、気にしないでください

困る、それでは困る。
私は立ち上がった。
彼の眼が、また胸元に走った。
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