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誰もいないベッドルームで読む小説
第5章 この夜にほどけて

静かな部屋。シーツの中、彼女の体温が近い。
寝返りをうった拍子に、腕が触れた。
ふと、眠っていると思っていた彼女のまつ毛が揺れる。
「起きてたの?」
「……うん。なんか、眠れなくて」
低い声が胸に落ちる。
ベッドの中の空気は、熱でも冷たさでもなく、妙に心を研ぎ澄ませる。
そっと触れた指が、彼女の手の甲に触れる。
拒まれない。
それだけで、心の奥がやわらかくなった。
「こうしてると……昔に戻ったみたい」
彼女がぽつりとつぶやく。
あの頃より大人になったはずなのに、たった一つの温もりに、どうしようもなくほどけてしまう。
私は彼女の手をたどって、肩に、鎖骨に、肌の上をなぞった。
彼女は何も言わず、ただ、そっと目を閉じた。
「ずるいね、こういうの」
「……どっちが?」
唇が触れ合うと、時の流れも名前もいらなくなった。
ただ確かに今、ふたりでいることだけが真実だった。
シーツの擦れる音と、かすかな吐息。
重なる心と体は、痛みも喜びも溶かしながら、静かに、深く、夜に沈んでいく。
完
寝返りをうった拍子に、腕が触れた。
ふと、眠っていると思っていた彼女のまつ毛が揺れる。
「起きてたの?」
「……うん。なんか、眠れなくて」
低い声が胸に落ちる。
ベッドの中の空気は、熱でも冷たさでもなく、妙に心を研ぎ澄ませる。
そっと触れた指が、彼女の手の甲に触れる。
拒まれない。
それだけで、心の奥がやわらかくなった。
「こうしてると……昔に戻ったみたい」
彼女がぽつりとつぶやく。
あの頃より大人になったはずなのに、たった一つの温もりに、どうしようもなくほどけてしまう。
私は彼女の手をたどって、肩に、鎖骨に、肌の上をなぞった。
彼女は何も言わず、ただ、そっと目を閉じた。
「ずるいね、こういうの」
「……どっちが?」
唇が触れ合うと、時の流れも名前もいらなくなった。
ただ確かに今、ふたりでいることだけが真実だった。
シーツの擦れる音と、かすかな吐息。
重なる心と体は、痛みも喜びも溶かしながら、静かに、深く、夜に沈んでいく。
完

