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誰もいないベッドルームで読む小説
第6章 くちづけの温度 ―深く、濡れて―
「ねえ……キスって、どうしてすると思う?」

部屋に入ったばかり。まだ息が冬の夜を引きずっているのに、彼女は真っ直ぐ私を見た。
コートの前も開いたまま、肩で落ちた髪がうっすら濡れて光っている。
言葉より先に、その視線にのまれた。

「教えてよ」
囁くような声とともに、彼女が一歩踏み込む。ヒールの音がカーペットに沈み、彼女の吐息が私の頬をかすめた。

触れたのは、ほんの一瞬。
けれど、唇が合った瞬間、世界が内側から崩れ落ちるようだった。
柔らかくて、濡れていて、温かくて。
それなのに、背筋がぞくりとするほど、ひりついた。

「まだ、足りない」
彼女の手が私の首筋に添えられる。細く、冷たい指がじんわりと熱を帯びていく。

次のキスは、深くて、重たかった。
唇が重なり合い、舌が遠慮なく絡まる。
彼女の唾液の甘さが、喉を通って体の奥に染みていく。

息が苦しくなって、身体が自然にしなる。
太ももが擦れ合っているのが分かったとき、自分がどれほど濡れているかにも気づいてしまう。

「ねえ、震えてる」
唇を離した彼女が、私の耳たぶをくすぐるように囁く。
耳元にふれた吐息でさえ、体中に染みわたってしまう。

彼女の指先が、コートの隙間から入り込む。シャツの布越しに、うっすらと胸をなぞる。
そのたびに、奥の奥まで反応してしまう私が、恥ずかしくてたまらない。

「キスってね──こうして、全部を溶かすためにするの」
そう言いながら、また唇を重ねてきた。
拒めない。拒みたくない。
彼女の唇の温度が、私のすべてをとかしていくのを、ただ感じていた。

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