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わたしの妄想日誌
第11章 演奏会
 おじさんの家の呼び鈴を鳴らすと、おじさんがいつもの優しい笑顔で迎えてくれました。

 「よく来たね。今日は楽しみにしてたんだよ」

 部屋の中には、おじさんのお友達が三人ほどいらっしゃいました。みなさん静かに椅子に腰かけて、おじさんが入れてくれたお茶を飲んでいました。わたしが入ると、にこやかに会釈をしてくださいました。

 おじさんが用意してくれた椅子に腰を下ろしました。おじさんとお友達が座っていた椅子を動かしてわたしを囲む半円を描くようにしてくれました。わたしもお茶とお菓子をいただきました。

 「じゃあ、そろそろ始めましょうか」

 おじさんに促されて準備を始めました。

 「大丈夫。いつも通りでいいからね」

 おじさんが小さな声でそう言ってくれました。その言葉を聞いて、緊張が少しだけ和らぎました。

 深呼吸をして、椅子に座りました。目を閉じてもう一度深呼吸をして、おじさんが教えてくれたように構えました。お友達の皆さんからどよめきというか、感心したような声が聞こえました。

 (いつも通りでいいんだから…)

 もう一度心の中で呟きながら、指を楽器に添えてゆっくり動かし始めました。最初の一音が部屋に響くのが聞こえると、『いつも通り』の感じをつかめたような気がしました。途中で少し指がもつれそうになって薄目を開けたら、おじさんがやさしくうなずいてくれて、安心することができました。

 演奏が終わりわたしは目を開けました。お部屋の中は静まり返っていましたが、お辞儀をすると温かい拍手が起こりました。おじさんはわたしのところへ来て、そっと肩に手を置いて言いました。

 「よくがんばったね。今日の音は、本当にすばらしかったよ」

 その言葉を聞いた瞬間、胸の奥がじんわりと熱くなりました。おじさんのお友達も、口々に感想を言ってくださいました。

 「この歳でこんな音が出せるなんて。楽器もあなたの技巧もすばらしいかったよ」
 「そうだね。クライマックスに至るときの、あの手首の絶妙な角度を保ったままの高速の指の動き、見事だった」
 「年齢相応の若々しい高音はもちろん、落ち着いた…いや、情念が籠っていると言ってもいいような低音にも心を奪われたね。これからどんどん上手になっていくのだろうね。本当に楽しみだ」
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