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雨にほどける
第7章 遠雷を待ちながら

――東京に戻ってから、私はよく雨の音を探すようになった。
自室の窓にあたる粒の響き。
歩道の傘の群れが立てる、さざ波のような気配。
耳を澄ませば、あの夜が、胸の奥でまた濡れていく。
帰郷から数日が経っていた。
あれから、涼とはメッセージのやり取りを少しだけ。
「無事についた」「体、冷やさないでね」
それくらい、たわいもない言葉。
けれど、その一文字一文字に、私は心をすり減らしていた。
もっと言いたいことがあるのに。
「会いたい」と、すぐに言ってしまいそうで。
――だめだ。まだ、焦っちゃいけない。
涼のことは、信じている。
あの朝の笑顔も、あの声も、全部。
だけど、遠く離れた街で、
涼が何をしているのか、誰といるのか、私は知らない。
夜になると、ベッドに沈みながら、
彼女の髪の香りを思い出す。
長いまつげ、やわらかい指先――
触れた記憶が、逆に私を切なくさせる。
私はまた、自分の身体に問いかけてしまう。
あの時のように、声を殺して、目を閉じて、
ただ、涼の名前を、心の奥で繰り返す。
「……せんせ」
どれほどこの感情が募っても、
届かない想いになるのがこわかった。
その夜、携帯に一通のメッセージが届いた。
今度の金曜、仕事で岡山に寄るかも。
少しだけでも、会えたら嬉しい。
――遠くの空で、かすかな雷鳴が鳴った気がした。
まだ乾ききらない心に、また雨が降り始める。
でも今度は、雨音が導いてくれる気がした。
あの夜の続きへ――まだ終わっていない物語の、続きを。
自室の窓にあたる粒の響き。
歩道の傘の群れが立てる、さざ波のような気配。
耳を澄ませば、あの夜が、胸の奥でまた濡れていく。
帰郷から数日が経っていた。
あれから、涼とはメッセージのやり取りを少しだけ。
「無事についた」「体、冷やさないでね」
それくらい、たわいもない言葉。
けれど、その一文字一文字に、私は心をすり減らしていた。
もっと言いたいことがあるのに。
「会いたい」と、すぐに言ってしまいそうで。
――だめだ。まだ、焦っちゃいけない。
涼のことは、信じている。
あの朝の笑顔も、あの声も、全部。
だけど、遠く離れた街で、
涼が何をしているのか、誰といるのか、私は知らない。
夜になると、ベッドに沈みながら、
彼女の髪の香りを思い出す。
長いまつげ、やわらかい指先――
触れた記憶が、逆に私を切なくさせる。
私はまた、自分の身体に問いかけてしまう。
あの時のように、声を殺して、目を閉じて、
ただ、涼の名前を、心の奥で繰り返す。
「……せんせ」
どれほどこの感情が募っても、
届かない想いになるのがこわかった。
その夜、携帯に一通のメッセージが届いた。
今度の金曜、仕事で岡山に寄るかも。
少しだけでも、会えたら嬉しい。
――遠くの空で、かすかな雷鳴が鳴った気がした。
まだ乾ききらない心に、また雨が降り始める。
でも今度は、雨音が導いてくれる気がした。
あの夜の続きへ――まだ終わっていない物語の、続きを。

