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雨にほどける
第8章 第七章:湿りゆく境界線

――金曜の午後、岡山駅前の空は灰色に濁っていた。
雲が低く垂れこめて、雨になるまでの時間をゆっくりと溶かしている。
約束の時間は、午後六時。
私は少しだけ早く、駅近くのカフェに入った。
落ち着かない手のひらを何度も膝に押しつけて、時計を見て、また目をそらす。
雨は、まだ降らない。
けれど、私のなかでは、もうずっと、降り続けていた。
――会える。
でも、どんな顔をすればいいんだろう。
また触れたくなったら、私はちゃんと、理性を保てる?
考えるたびに喉が乾いて、アイスティーに口をつける。
ふと、扉のベルが鳴った。
「澪ちゃん」
――その声だけで、心がふるえた。
白のシャツに黒いパンツ。
きちんと結ばれた髪の間から、涼が笑った。
でも、その瞳の奥に、私と同じ焦がれる色が見えた気がした。
「早かったのね、待たせた?」
「ううん……こっちこそ」
言葉の間を埋めるように、ふたりは視線を交わす。
ほんの数秒の沈黙が、胸の奥で湿っていく。
――もっと話したい。けれど、話さなくてもいい。
そう思える距離が、逆に苦しかった。
そのまま夕食をとり、小さな会話を重ねながら、
ふたりの時間はゆるやかに過ぎていく。
やがて、涼がぽつりと口を開いた。
「今日ね……少しだけ、ホテルを取ってあるの」
その声に、私の心は跳ねた。
それがどういう意味か、すぐにわかってしまったから。
「もし……嫌じゃなければ。澪ちゃんが、来てくれるなら」
――私は、うなずいた。
まだ雨は降っていなかった。
でも、湿度はじわじわと高まり、
胸の奥が、ふたたび濡れはじめていた。
静かににじむ情熱が、
再び、境界線をゆっくりと溶かしていく。
雲が低く垂れこめて、雨になるまでの時間をゆっくりと溶かしている。
約束の時間は、午後六時。
私は少しだけ早く、駅近くのカフェに入った。
落ち着かない手のひらを何度も膝に押しつけて、時計を見て、また目をそらす。
雨は、まだ降らない。
けれど、私のなかでは、もうずっと、降り続けていた。
――会える。
でも、どんな顔をすればいいんだろう。
また触れたくなったら、私はちゃんと、理性を保てる?
考えるたびに喉が乾いて、アイスティーに口をつける。
ふと、扉のベルが鳴った。
「澪ちゃん」
――その声だけで、心がふるえた。
白のシャツに黒いパンツ。
きちんと結ばれた髪の間から、涼が笑った。
でも、その瞳の奥に、私と同じ焦がれる色が見えた気がした。
「早かったのね、待たせた?」
「ううん……こっちこそ」
言葉の間を埋めるように、ふたりは視線を交わす。
ほんの数秒の沈黙が、胸の奥で湿っていく。
――もっと話したい。けれど、話さなくてもいい。
そう思える距離が、逆に苦しかった。
そのまま夕食をとり、小さな会話を重ねながら、
ふたりの時間はゆるやかに過ぎていく。
やがて、涼がぽつりと口を開いた。
「今日ね……少しだけ、ホテルを取ってあるの」
その声に、私の心は跳ねた。
それがどういう意味か、すぐにわかってしまったから。
「もし……嫌じゃなければ。澪ちゃんが、来てくれるなら」
――私は、うなずいた。
まだ雨は降っていなかった。
でも、湿度はじわじわと高まり、
胸の奥が、ふたたび濡れはじめていた。
静かににじむ情熱が、
再び、境界線をゆっくりと溶かしていく。

