この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第5章 「掌に、熱を」

掌の中に、熱があった。
それは火傷のように鋭くもなく、陽だまりのように優しすぎることもない。
ただ、確かにそこに存在していた。
ゆきの毛並みを撫でながら、澪はまだ、その額に落とされたキスの余韻を胸の奥に抱いていた。
それは頬を染めるような甘さではなく、むしろ静かな痛みに近かった。
痛みの形をした「やさしさ」に、澪はどう反応すればいいのかわからなかった。
――触れたい、のかもしれない。
けれどそれは、たやすく言葉にできる感情ではなかった。
だから澪は、ゆっくりと環の家のチャイムを押した。
約束もせずに。呼吸を整えずに。ただ、その人の声を確かめたくて。
「……澪?」
玄関を開けた環は、驚きながらも、笑った。
その笑みは飾り気がなく、今日の天気のようにあたたかだった。
リビングには、窓から射し込む午後の光と、コーヒーの香りがあった。
澪は何も言わず、環の差し出したマグカップを受け取った。
ゆきはソファの下で丸くなり、安心したように小さく鼻を鳴らす。
「ねえ、触れてもいい?」
環が問うたとき、澪は少しだけ目を見開いた。
けれど、逃げなかった。逃げなかった自分に、自分が一番驚いていた。
それは火傷のように鋭くもなく、陽だまりのように優しすぎることもない。
ただ、確かにそこに存在していた。
ゆきの毛並みを撫でながら、澪はまだ、その額に落とされたキスの余韻を胸の奥に抱いていた。
それは頬を染めるような甘さではなく、むしろ静かな痛みに近かった。
痛みの形をした「やさしさ」に、澪はどう反応すればいいのかわからなかった。
――触れたい、のかもしれない。
けれどそれは、たやすく言葉にできる感情ではなかった。
だから澪は、ゆっくりと環の家のチャイムを押した。
約束もせずに。呼吸を整えずに。ただ、その人の声を確かめたくて。
「……澪?」
玄関を開けた環は、驚きながらも、笑った。
その笑みは飾り気がなく、今日の天気のようにあたたかだった。
リビングには、窓から射し込む午後の光と、コーヒーの香りがあった。
澪は何も言わず、環の差し出したマグカップを受け取った。
ゆきはソファの下で丸くなり、安心したように小さく鼻を鳴らす。
「ねえ、触れてもいい?」
環が問うたとき、澪は少しだけ目を見開いた。
けれど、逃げなかった。逃げなかった自分に、自分が一番驚いていた。

