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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第5章 「掌に、熱を」
 掌の中に、熱があった。
 それは火傷のように鋭くもなく、陽だまりのように優しすぎることもない。
 ただ、確かにそこに存在していた。

 ゆきの毛並みを撫でながら、澪はまだ、その額に落とされたキスの余韻を胸の奥に抱いていた。

 それは頬を染めるような甘さではなく、むしろ静かな痛みに近かった。
 痛みの形をした「やさしさ」に、澪はどう反応すればいいのかわからなかった。

 ――触れたい、のかもしれない。
 けれどそれは、たやすく言葉にできる感情ではなかった。

 だから澪は、ゆっくりと環の家のチャイムを押した。
 約束もせずに。呼吸を整えずに。ただ、その人の声を確かめたくて。

 「……澪?」

 玄関を開けた環は、驚きながらも、笑った。
 その笑みは飾り気がなく、今日の天気のようにあたたかだった。

 リビングには、窓から射し込む午後の光と、コーヒーの香りがあった。

 澪は何も言わず、環の差し出したマグカップを受け取った。
 ゆきはソファの下で丸くなり、安心したように小さく鼻を鳴らす。

「ねえ、触れてもいい?」

 環が問うたとき、澪は少しだけ目を見開いた。
 けれど、逃げなかった。逃げなかった自分に、自分が一番驚いていた。
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