この作品は18歳未満閲覧禁止です

- 小
- 中
- 大
- テキストサイズ
雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第6章 「閉じた扉、揺れた心」

駅前の歩道橋の上で、澪は立ち止まった。
朝の通勤ラッシュがひと段落した時間帯、行き交う人の数はまばらで、曇り空が頭上に重くのしかかっていた。
それでも、澪は黒いフードをかぶっていた。
風が耳に吹きつけるたび、昨日の環の手の温もりが遠くなっていくようで、胸の奥に妙な焦りが芽生えた。
――あんなふうに、触れてくれて。
――わたしは、受け取ってしまったのに。
まだ、自分が何をしてしまったのかさえわからなかった。
ただ、環の声、指先、唇――それらが、自分の内側に染み込んでいるのを感じていた。
歩道橋の真ん中に立ち、澪はフェンス越しに街を見下ろした。
下を行く人々の顔はよく見えず、まるで別の世界を見ているような感覚だった。
――わたしには、まだ笑う資格なんてない。
記憶の奥底に、制服姿の少女たちの笑い声が蘇る。
教室の片隅で、筆箱が開かれ、中身が散乱したあの日。
机の上の水たまり。椅子の脚に括られた紐。
笑っていた環の横顔。
あの時の、目を合わせようとしなかった瞳――
「やめてよ……」
ぽつりと唇が動いたとき、不意に後ろから声がした。
「澪……?」
振り向くと、そこにいたのは環だった。
偶然、ではないのだとすぐにわかった。
彼女は澪を探していたのだ。澪も、なぜかわかっていた。
朝の通勤ラッシュがひと段落した時間帯、行き交う人の数はまばらで、曇り空が頭上に重くのしかかっていた。
それでも、澪は黒いフードをかぶっていた。
風が耳に吹きつけるたび、昨日の環の手の温もりが遠くなっていくようで、胸の奥に妙な焦りが芽生えた。
――あんなふうに、触れてくれて。
――わたしは、受け取ってしまったのに。
まだ、自分が何をしてしまったのかさえわからなかった。
ただ、環の声、指先、唇――それらが、自分の内側に染み込んでいるのを感じていた。
歩道橋の真ん中に立ち、澪はフェンス越しに街を見下ろした。
下を行く人々の顔はよく見えず、まるで別の世界を見ているような感覚だった。
――わたしには、まだ笑う資格なんてない。
記憶の奥底に、制服姿の少女たちの笑い声が蘇る。
教室の片隅で、筆箱が開かれ、中身が散乱したあの日。
机の上の水たまり。椅子の脚に括られた紐。
笑っていた環の横顔。
あの時の、目を合わせようとしなかった瞳――
「やめてよ……」
ぽつりと唇が動いたとき、不意に後ろから声がした。
「澪……?」
振り向くと、そこにいたのは環だった。
偶然、ではないのだとすぐにわかった。
彼女は澪を探していたのだ。澪も、なぜかわかっていた。

