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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第6章 「閉じた扉、揺れた心」
 駅前の歩道橋の上で、澪は立ち止まった。

 朝の通勤ラッシュがひと段落した時間帯、行き交う人の数はまばらで、曇り空が頭上に重くのしかかっていた。

 それでも、澪は黒いフードをかぶっていた。
 風が耳に吹きつけるたび、昨日の環の手の温もりが遠くなっていくようで、胸の奥に妙な焦りが芽生えた。

 ――あんなふうに、触れてくれて。
 ――わたしは、受け取ってしまったのに。

 まだ、自分が何をしてしまったのかさえわからなかった。
 ただ、環の声、指先、唇――それらが、自分の内側に染み込んでいるのを感じていた。

 歩道橋の真ん中に立ち、澪はフェンス越しに街を見下ろした。
 下を行く人々の顔はよく見えず、まるで別の世界を見ているような感覚だった。

 ――わたしには、まだ笑う資格なんてない。

 記憶の奥底に、制服姿の少女たちの笑い声が蘇る。

 教室の片隅で、筆箱が開かれ、中身が散乱したあの日。
 机の上の水たまり。椅子の脚に括られた紐。
 笑っていた環の横顔。
 あの時の、目を合わせようとしなかった瞳――

「やめてよ……」

 ぽつりと唇が動いたとき、不意に後ろから声がした。

「澪……?」

 振り向くと、そこにいたのは環だった。

 偶然、ではないのだとすぐにわかった。
 彼女は澪を探していたのだ。澪も、なぜかわかっていた。

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