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雨夜の灯(あまよのあかり)ー再会から始まる恋
第6章 「閉じた扉、揺れた心」
「来てくれる気がした」

 環の声は、どこまでも静かだった。
 言い訳も、理由も要らないとでもいうように、ただまっすぐ澪を見ていた。

「……どうして、そんなふうにできるの?」

 澪の声は、掠れていた。喉の奥に何かがつかえていた。

「こんなに……わたしはまだ、ぐちゃぐちゃなのに」

 環は小さく息を呑み、そして近づいた。
 そっと、澪の両手を取る。フェンス越しに吹いた風が、ふたりの間の空気を撫でた。

「わたしもぐちゃぐちゃだったよ。いまでも、澪のこと思い出すたびに、胸が苦しくなる」

 瞳を伏せていた澪は、その言葉で初めて、視線を上げた。

「でもね、ぐちゃぐちゃなままじゃ、澪とちゃんと向き合えないから」

 その言葉に、澪の奥底にあった何かが、微かに震えた。

 「わたし、怖い。あなたに手を伸ばしたら、何かが壊れる気がして」

 「それでもいいよ。壊れても、いっしょに拾っていけばいい。澪のこと、ひとりにしないから」

 その言葉に、澪の指が微かに震えた。
 扉は、まだ閉じたままだ。けれど、鍵穴の奥で、小さな音が鳴った気がした。
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