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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第13章 一気呵成のカタルシス
楓と案内された個室は、思っていたよりずっと明るかった。

壁際の大きなモニターには流行りの歌手が映り、笑顔で何かを宣伝している。

明るい声が部屋いっぱいに響いているのに、その賑やかさはどこか空虚に感じられた。

裕樹の胸をざわつかせていたのは映像ではなく、隣に座る楓の存在だ。

ただ座っているだけなのに、楓から漂う色香に当てられて、呼吸が落ち着かない。

(…やばい。もしエロい展開になったらどうしよう…でもここカラオケだしな…。)

そんな考えが頭をよぎり、余計に汗がにじむ。

ドアのノックの乾いた音が三回鳴った後、「失礼しま〜す」と店員が持ってきたドリンクを机に置く。

氷がからんと音を立て、扉が閉まった途端に、また二人きりの空気が濃くなる。

「アキ……くんは、歌わないの?」

そう言って楓がデンモクを差し出す。

呼びかけの途中で、わずかに言い淀んだように聞こえた。

メッセージではいつも"アキ先生"だったのに、目の前にすると年下らしさを強く意識させられ"くん"と呼び直された気がして、裕樹は少し戸惑った。

「え? あ、いや……人前で歌うの苦手で…。」

「そうなんだ。残念。聴いてみたかったのに。」

楓はそう言うと、微笑んでグラスのストローを軽くかき混ぜてからひと口。

そして、ふと真っ直ぐに裕樹の目を見た。

「歌はまたいつかね。それにしても…こんなに若くて可愛らしい顔をしてるのに、あんなに生々しくて人を興奮させる文章を書くなんて、見かけに寄らないね。」

可愛らしいという言葉に、男の自尊心を傷つけられる感覚は裕樹にはなかった。

むしろ、背筋を撫でられるような、ゾクッとする心地よさがあった。

「可愛らしい、なんて。でもそう言ってもらえて嬉しいです。」
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