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柔肌に泥濘んで、僕は裏返る
第13章 一気呵成のカタルシス
「葵ちゃんの体の隅々まで、すごく細かく書いているよね。まるで、アキくん自身がカメラみたいに。同じ女からすると、″こんなところまで見られてる″って思うと、ゾクゾクしちゃう。ホクロの数とか数えられちゃいそう。」

楓はそう言って、自分の体を冗談めかして抱きしめる仕草をした。

「そ、そんなふうに思うんですね……。毎日見てたから、ですかね。」

(やばい、全然気の利いた返しができない…。)

もどかしさに頭を掻く裕樹を見て、楓はすっと瞳を覗き込んだ。

「どうしたの?……もしかして、緊張してる?」

「ははっ……正直、めっちゃ緊張してます。」

その言葉に楓は愛おしそうに目を細めた。

「緊張してるんだ。リラックスして。まずは敬語禁止にしよっか。葵ちゃんへのこだわり、文章にいっぱい現れてたよ。」

ふふっと笑いながらグラスを揺らし、氷の音を鳴らす。

「葵ちゃんとは本当にあれきり? 小説に書いてないエピソードとか、その後付き合った人とかはいないの?」

楓は同級生の恋愛話を聞きたがる少女のように、目を輝かせて問いかける。

敬語を封じられた裕樹は、言葉を探すように口ごもり、ぎこちなく話し始めた。

「葵ちゃんとは……本当に何もない。小説に書いたことが全部だよ。……大学で付き合った人はいたんだけど…エッチはしてなくて。思い出は葵ちゃんとの夜のままなんだ。」
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