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ラスト・セックス
第1章 1日目
この作品はフィクションであり、登場する人物等は実在のものとは関係ありません。

史上最も暑い夏がようやく過ぎようとしていた。車窓から見えるうろこ雲が秋の訪れを告げているようだ。ジャックは休暇で山梨県にある石和温泉に来ていた。娘夫婦が温泉宿をやっているのだ。1泊して中央本線14時30分発の特急かいじ32号新宿行きに乗り、窓側の席に座り帰途についた。

車内から都内では見れないのどかな風景を眺めていると、心が洗われた。山と川と森とたまに民家がある。一面緑の世界。通過する無人駅。広大な田畑。旅はいいものだ。15時過ぎに大月に停車した。ここは河口湖まで延びる富士急行線の乗換駅のため、ホームも大きく乗り降りも多い。

かいじ号は全車指定席なため、1人の乗客は大抵窓側だ。車内にはまだ窓側がいくつも残っているにもかかわらず、その男はジャックの隣りに座ろうとしたので、慌てて隣席に置いてあった鞄を足元に降ろした。変わった奴もいるもんだと思った。

ジャックは発車してからどうも隣席の男に見覚えがあった。だが誰だが思い出すことができない。年齢はジャックと同じぐらいだ。少しして隣席の男のスマホが鳴った。
「もしもし?」
「・・・」
「ああ、戸坂だ」
そう言って男は立ってデッキに向かった。そしてジャックは思い出したのだ。隣席の男は中学時代の同級生、戸坂剛だと。

隣席の男が戻ってきたので、ジャックは声をかけた。
「ごうちゃん」
剛は少し間をおいて
「ジャッキーか?」
「そうだ。思い出したか」
二人は中学時代の親友だ。懐かしくて二人ともはしゃいだ。

「ジャッキー、白髪多いな」
「ごうちゃんこそ相変わらずスポーツ刈りでガキのまんまだな」
二人はしばし時を忘れた。
「ごうちゃん、何で通路側買ったんだ?」
「窓側だとさっきみたいに電話のとき通路側の人にお願いしないと、それが面倒でね」
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