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四谷荒木町の女〜再会の熱い夜
第5章 二度目の別れ

それから一ヶ月ほど経った頃だ。新宿へ行く用事があった彼は、ついでに四谷荒木町まで足を伸ばしてみた。街並みは変わらず、あのスナックの建物もそのままそこにあった。しかし「美和」という看板は無くなっていた。
スナックの黒いドアには「空き店舗。入居者募集中」という張り紙があった。
……これでもう二度と。
あの夜、彼女を抱いたあの時、彼が"しのぶ"と呼んだら、彼女は小さな声で、彼の名前を呼んだ、気がした。彼女に教えた神岡真司というペンネームではなく、彼の本名をだ。その時は聞き間違いだろうと思った。多少なりとも酔っていたから、そう聞こえたのは気のせいだった可能性もある。だが今は。
……彼女は……やはり。
彼のペンネームのように、スナックの名前の「美和」も、ただの屋号だった、かもしれない。あるいは、店のオーナーが変わった際に、看板を作り替えるには金がかかるという理由から、以前の店の物をそのまま流用し、内装もそのまま、最小限のリフォームだけで、いわゆる居抜きでスナックをやっていた可能性だってある。
スナックの黒いドアには「空き店舗。入居者募集中」という張り紙があった。
……これでもう二度と。
あの夜、彼女を抱いたあの時、彼が"しのぶ"と呼んだら、彼女は小さな声で、彼の名前を呼んだ、気がした。彼女に教えた神岡真司というペンネームではなく、彼の本名をだ。その時は聞き間違いだろうと思った。多少なりとも酔っていたから、そう聞こえたのは気のせいだった可能性もある。だが今は。
……彼女は……やはり。
彼のペンネームのように、スナックの名前の「美和」も、ただの屋号だった、かもしれない。あるいは、店のオーナーが変わった際に、看板を作り替えるには金がかかるという理由から、以前の店の物をそのまま流用し、内装もそのまま、最小限のリフォームだけで、いわゆる居抜きでスナックをやっていた可能性だってある。

