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四谷荒木町の女〜再会の熱い夜
第5章 二度目の別れ
 今になって思い返してみれば、彼女へ名前を尋ねたあの時、美和ですよねと聞いたら、少し間が空いたのは、おそらく。だがそれも証拠は何もない。彼の希望的な憶測だ。

 あの二階の部屋には、ベッドのほかにも、男と女が睦み合うのに必要なものが揃っていた。積まれたティッシュの箱や灰皿は、スナックの備品かもしれない。彼女が喫煙者でないのはキスしたからわかる。だが、彼女から受け取ったコンドームは、どうなのか。枕元にあったそれを、彼女はさりげなく彼にくれた。だから、あれは、あの部屋は……。

 勘繰ったらきりがない。確証が無いものを、これ以上、あれこれ考えても仕方がない。

 不動産屋を当たれば彼女の消息はわかるかもしれない。しかし。

 彼女を抱いたあと、彼女の正体を問いただした彼は冷たく突き放された。誘惑したのは彼女のほうなのに。

 ……女ってやつはよくわからない。こんな歳になっても謎だ。

 拒絶された女を追い回すつもりは無かった。そんなストーカーまがいの真似はしたくなかった。
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